こんにちは、バックオフィス業務サポートサービス「AIBOW」編集部です。
賃金は企業が従業員に支払う金銭のこと。最低賃金や割増賃金など、関連用語にもよく使われる言葉です。
しかし給料や給与との違い、賃金の支払5原則、賃金未払いの時効について知らない人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「賃金とは何か、その周辺知識や関連法」などを網羅的に解説します。
賃金とは
賃金とは、労働に対する報酬として支払われる対価のことです。とはいっても、どの報酬を賃金として扱うのか、あるいは扱わないのか、判断に迷う経営者も多いでしょう。
そこでこの段落では、賃金の定義を説明し、賃金とするもの・しないものを紹介していきます。
賃金の定義
賃金の定義は、労働基準法第11条で次のように定められています。
『この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう』(引用元:e-Gov「労働基準法」)
一般的に賃金は、労働協約、就業規則、労働契約(雇用契約)などで支給条件が明確にされているもので、税金や社会保険料などを控除する前の支給総額のことを指します。
「給与」との違いについては後ほど詳しく解説しますが、基本給・能力給・資格給などの給与として扱われている金銭は、ほぼ賃金と同じ意味で使われています。
支給方法については問わないため、月給制か年俸制かなどは関係ありません。
実際の賃金体系(基本給や各種諸手当などの賃金構成)は、各企業や労働内容によって異なります。
賃金であるかどうかについては、「企業活動の費用」「従業員の生活費」「労働の対価」という3つの要素で判断することが可能です。
・参考サイト:賃金とは | 厚生労働省 山形労働局(PDF)
賃金とするもの
具体的に賃金とするものについて見ていきましょう。まず時間給、日給、月給などの基本賃金のほか、夏季・年末などに支払われる賞与が賃金とするものとなります。
また労働協約、就業規則、労働契約などによって支給条件が定められた退職手当、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金なども賃金です。
ほかには、通勤手当など及び通勤乗車券、扶養手当や子供手当、家族手当、住宅手当、休業手当といったものも賃金に含まれます。
労働者が負担しなくてはならない所得税や社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)を事業主が労働者に代わって負担した金額も賃金に含まれます。
現物支給は所定の現金給与の代わりに支給するものは賃金とされますが、代金を徴収するものや福利厚生とみなされるものについては原則として賃金となりません。
・参考サイト:賃金とは | 厚生労働省 山形労働局(PDF)
賃金としないもの
続いて賃金としないものについても具体的に紹介していきましょう。
任意的恩恵給付、福利厚生としての給付、企業設備・業務費、チップ(心付け)は、賃金とみなされません。
任意的恩恵給付とは、役員報酬や結婚祝金、病気見舞金、弔慰金、退職金、出産祝金などのことです。
福利厚生としての給付は、資金貸付、金銭給付、住宅貸与、運動施設・レクリエーション施設、社宅の賃貸などが該当します。
企業設備・業務費は、制服・作業服、作業用品代、出張旅費、社用交際費、器具損料などが該当します。
これらの任意的恩恵給付、福利厚生としての給付、企業設備・業務費については、労働の対価とは認められないため、賃金には含まれません。
なおチップは客が従業員に支払うものであるため、賃金ではないとされます。
ただしサービス料として客から店側がチップを受け取り、一定の計算に基づいて労働者に分配する場合は賃金に該当するという点も覚えておきましょう。
・参考サイト:賃金とは | 厚生労働省 山形労働局(PDF)
賃金の関連用語
「最低賃金」や「割増賃金」のように、賃金に関係する用語は多く存在します。これらの用語についての知識は、労務や経理の業務で必要になるためしっかり把握しておく必要があります。
そこでこの段落では、賃金の関連用語について詳しく解説していきます。賃金の定義や種類と合わせて、関連用語についてもきちんと理解しておきましょう。
最低賃金
最低賃金とは、最低賃金法で定められた「使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額」のことをいいます。
最低賃金よりも低い額で雇用契約を結んでも無効になるため注意が必要です。
意外と知られていませんが、もし最低賃金に満たない賃金しか支払っていなかった場合、使用者は労働者に差額を支払わなければならず、罰則も存在します。「バレなければいい」という考えで、最低賃金以下の額にて労働者を働かせるのは禁止です。
なお最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業ごとに定められた「特定最低賃金」の2種類があります。
このうち、地域別最低賃金額は2021年10月に改定されました。地域別最低賃金額が改定されるたびにニュースになるため、多くの人が「最低賃金」と聞いて思い浮かべるのはこの地域別最低賃金です。
ちなみに最低賃金時間額は東京が最も高くて1041円、最も低いのは高知と沖縄の820円となっています。地域によって最低賃金額に大きな差があることがわかるでしょう。
特定最低賃金は、産業の労使によって最低賃金を地域別最低賃金より高く定める必要があると認められた場合に設定されるものです。これには企業や産業の魅力を高める目的があります。
使用者が特定最低賃金を下回る賃金しか支払わなかった場合には罰則があり、上限30万円の罰金が課されることになります。
・参考サイト:地域別最低賃金の全国一覧 | 厚生労働省
割増賃金
割増賃金(わりましちんぎん)とは、労働基準法第37条に規定されており、時間外労働・休日労働・深夜業をさせたときに労働者に支払う賃金のことを指します。
それぞれ支払わなければならない割増率は異なるという点も理解しておくべきポイントです。
時間外労働の場合、割増賃金は通常の賃金の2割5分以上を支払う必要があり、休日労働に対する割増賃金は通常の賃金の3割5分以上を支払う必要があります。
深夜業とは午後10時から翌日午前5時までの間の労働のことを指し、深夜業をさせた場合、使用者は割増賃金を2割5分以上支払わなければなりません。
なお深夜業の割増賃金は時間外労働や休日労働の割増賃金と重複することもあり、重複した場合、実際の支払額はさらに増えることに。時間外労働と重複するのであれば合計5割以上、休日労働なら合計6割以上を支払う必要があります。
・参考サイト:法定労働時間と割増賃金について教えてください。 | 厚生労働省
平均賃金
平均賃金とは、労働基準法で定められている解雇予告手当、休業手当、有給中の賃金、労災補償、減給制裁の限度額などを算定するときの基準となる金額のことをいいます。
算定方法は、3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額となります。
解雇予告手当は、労基法第20条で平均賃金の30日以上と定められており、使用者都合による休業手当は、労基法第26条で1日につき平均賃金の6割以上と定められています。
有給取得日の賃金は、平均賃金ではなく通常の賃金を支払うことも可能です。通常賃金であれば、有給休暇の取得日数に関係なくいつも通りの賃金計算で支給できるため事務処理がスムーズにできます。
また労働者が業務による負傷をした場合や疾病にかかった場合、死亡した場合の災害補償等に関しても、労基法第76条から82条の労災保険法にて、平均賃金の計算が必要と定められています。
減給制裁の制限額についても、1回の額は平均賃金の半額まで支払うこととなっており、制裁が複数回の場合は支払賃金総額の1割まで支払うことが労基法第91条で定められています。
・参考サイト:平均賃金の計算方法 | 厚生労働省 宮城労働局(PDF)
賃金総額
賃金総額とは、その名の通り賃金の合計額のことです。企業が従業員に対して支払う給与や賞与、各種手当をはじめ、その他労働基準法第11条に規定された賃金をすべて含めたものを指します。
賃金総額は、雇用保険や労災保険の保険料の算出、あるいは休業手当や有給期間中の賃金計算に必要な平均賃金の算出に用いられるのが特徴です。
また賃金総額は、税金や社会保険料などを控除する前の支払総額となります。
賃金の支払いが遅れている場合は、その未払い賃金分も計算する必要があります。
平均賃金の算出では、3か月分の賃金総額を用いるため、夏季・年末の年2回の賞与は含まずに計算しなくてはなりません。ただし3か月ごとの賞与がある場合は、賃金総額に算入する必要があるため注意しましょう。
賃金と給料・給与・報酬の違い
労働者に支払うお金を表す言葉は、賃金のほかに「給料」「給与」「報酬」があります。すべて同じような意味として捉えている方も多いと思いますが、混同していると保険料の算出や税務処理などで支障が出るため注意が必要です。
賃金の意味を正確に理解するためにも、これらの言葉と区別できるようにしておきましょう。
給料との違い
まずは「給料」との違いについて見ていきましょう。
労働基準法第11条の条文には、『この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう』(引用元:e-Gov「労働基準法」)とあるように、給料は賃金の定義に含まれていることがわかります。
一般的に給料は、正規勤務時間で働いた際に支給される基本給(固定給)を意味し、賞与や時間外手当(残業代)などを含まないものを指します。
それに対して賃金は時間外手当(残業代)なども含みます。したがって、賃金のほうが給料より意味が広いということになるのです。
また給与も、給料だけでなく賞与や各種手当まで含む言葉だということを覚えておきましょう。
なお基本的に賃金の支給も給料の支給も金銭に限定されていますが、労使間の協定を結べば現物支給もできるようになっています。
給与との違い
続いて「給与」との違いについて見ていきましょう。結論からいうと、賃金と給与は実質的にはほぼ同義で使われる言葉です。
賃金が労働基準法で定義されているものなのに対し、給与(給与所得)は所得税法で定義されているという点が違いといえます。この点から、賃金は労働者側、給与は使用者側からの立場で労働の対価を表すという見方もあります。
また給与には通勤手当を含まず、通勤手当は所得税の課税対象ではありません。通勤手当は実質、すべて交通費として消えてしまうものなので、所得税として課税するのはよくないとされるためです。一方、賃金には通勤手当が含まれるのも違いといえます。
さらに賃金は原則的には支払いが金銭に限定されますが、給与は現物支給も含むとされています。ただし労使間協定を結べば、賃金として現物支給も可能です。
「給与の銀行振込」は一般的におこなわれていて問題がないように思えますが、賃金支払いの観点からは後述する「賃金支払の5原則」に抵触するということも知っておきたいポイントとなっています。
報酬との違い
次は「報酬」との違いについて見ていきましょう。賃金と報酬は、「労働対価の金銭」という意味合いにおいては同じものです。
しかし賃金が労使関係にある場合に用いられるものなのに対し、報酬は労使関係に限らないという点が異なります。
たとえば、役員報酬を「役員賃金」と言わないのは、労使契約でなく委任契約による報酬であり、賃金にあたらないためです。
民法上は、報酬を「労働者に限定することなく、請負や委任として役務を提供することに対して支払われるもの」という広い意味で使っており、雇用契約、委任契約、請負契約においても定義や解釈が変わりません。
つまりわかりやすくいうと、賃金と報酬は支払いの対象となる範囲に違いがあるということです。
また賃金が主に労働法の関連分野で用いられるのに対して、報酬は社会保険分野で用いられるという特徴があり、これも両者の違いとなっています。
賃金支払の5原則
賃金の支払いについては、労働基準法24条に「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」「毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められています。これが賃金支払の5原則です。
この段落では、この「賃金支払の5原則」についてどのようなものなのか、詳しく解説していきます。
・参考サイト:賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。 | 厚生労働省
通貨払いの原則
賃金支払の5原則のうち、まずは「通貨払いの原則」について見ていきましょう。
これは、「賃金は通貨で支払われなければならない」という労働基準法における規定です。
通貨とは、日本で通用する紙幣、つまり日本銀行券と貨幣を指します。外国人労働者の賃金であっても、日本国内で働いているのであれば日本円で支払うのが決まりです。外貨支払いは禁止されているため注意しましょう。
現物支給や小切手、手形、仮想通貨、あるいは金券や商品券での支払いも認められていません。その理由は、現金への交換が不便であり、価格が不明瞭で労働者に対して不利や危険があるためです。
ただし法令で認められているもの、労働協約で定めた場合や厚生労働省令で定める場合は通貨以外の支払いも可能となっています。
なお近年では賃金を現金で手渡しされるというケースは少ないもの。預貯金口座へ振込されるというケースが多く、それが当たり前だと思っている方も多いと思いますが、預貯金口座への振込は、個々の労働者の同意が必要となっているため覚えておきましょう。
・参考サイト:賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。 | 厚生労働省
直接払いの原則
賃金支払の5原則のうち、2つめが「直接払いの原則」。この直接払いの原則により、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁止しています。
労務を提供した労働者自身に賃金全額を帰属させるということで、これには中間搾取を排除する目的もあります。原則的に、家族や法定代理人であっても賃金を代わりに受け取ることは認められません。
アルバイトの未成年者が銀行口座を持っていない場合に、保護者の口座を賃金の振込先とすることも違反です。
とはいえどうしても本人が直接賃金を受け取ることができないという場合もあるでしょう。そんなときには例外が認められています。
たとえば労働者本人が病気などの理由で直接払いを受けられないとき、使者に対して賃金を支払うことは可能とされています。
また強制執行による差押えなどがあった場合も、例外的に差押債権者への支払いがおこなわれます。なお賃金は4分の3までが差押禁止となっているため、賃金債権の全額が差し押さえられることはありません。
・参考サイト:賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。 | 厚生労働省
全額払いの原則
賃金支払の5原則のうち、「全額払いの原則」によって使用者が賃金の一部を支払留保することを禁じています。
これは直接払いの原則とともに、労働の対価をすべて労働者に帰属させるという趣旨に基づくものです。
よって、「給与からの天引きは認められないのが原則で、使用者は労働者に働いた分の賃金をすべて支払う必要がある」と理解しておきましょう。
ただし公益上の必要性から、所得税や社会保険料の源泉徴収など、法令で定められているものについては賃金からの天引きが認められています。
また食事代や親睦会費、社宅家賃、会社立替金または社内貸付制度による返済金と利息、団体生命保険・損害保険の保険料、財形制度などの積立金などが控除できます。
書面による労使協定がある場合も控除可能。協定書には控除の対象となる具体的な項目と控除をおこなう給与の支払い日を記載する必要があります。
・参考サイト:賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。 | 厚生労働省
毎月払いの原則
賃金支払の5原則のうち「毎月払いの原則」では、賃金を毎月1回は必ず労働者に支払うこととすると定めています。
厳密に定義すると、毎月1日から末日までの期間において少なくとも1回は賃金を支払わなければならないということです。
賃金締切期間については、前月の25日から当月の24日までといった区切りで設定することができます。賃金支払期の間隔が開き過ぎると、労働者に生活上の不安が発生してしまうため、このように定められているのです。
ただし臨時に支払われる金銭や賞与、精勤手当や金属手当など厚生労働省令(労働基準法施行規則)で定める賃金については、毎月払いの原則の適用外となります。
また賃金を年俸制で決定する場合も毎月払いの原則に従って、年俸を12で割った一定額を月々支払うことになるので注意しましょう。
年俸制だからといって、1年に1回支払えばいいというものではありません。労働者の生活が不安定にならないよう、毎月払いの原則に則って少なくとも月に1回は支払わなければなりません。
・参考サイト:賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。 | 厚生労働省
一定期日払いの原則
賃金支払の5原則のうち「一定期日払いの原則」は、一定の期日を定めて賃金を支払わなければならないとする原則です。
「一定期日」とは特定可能で、かつ周期的に到来する期日でなければなりません。支払日の間隔が一定でなければ、いつ賃金が支払われるのかわからず、労働者が計画的に生活するのが困難になってしまうためです。
なお一定期日というのはたとえば月給なら毎月25日、週給なら毎週土曜日など、特定が可能で必ず一定の期間で到来する日に設定する必要があります。
月給制では「毎月第4金曜日支払い」のように、月ごとに支払日が異なるような設定はできません。
ただし「月末払い」としたときに各月によって末日が「30日」や「31日」になってしまうことは合法とされています。
また賞与など臨時に支払われる賃金にも、一定期日払いの原則が適用されません。
・参考サイト:賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。 | 厚生労働省
未払い賃金の時効
2020年の改正民法施行から、債権の種類にかかわらず、消滅時効期間は「権利を行使できることを知ったときから5年」「権利を行使できるときから10年」となりました。
それと同時に労働基準法も改正され、2020年4月1日以降に支払われるすべての賃金の消滅時効期間も2年から5年に延長されたのです。
労働基準法第115条では、「賃金の請求権を行使できるときから5年間、災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く)はこれを行使できるときから2年間おこなわなかった場合、時効となり消滅する」としています。
ただし請求権が時効で消滅したとしても、刑事手続上は公訴時効が完成するまで労働基準法の罰則が適用されることになります。
なお有給休暇の時効は2年、退職金の時効は5年で、これについては改正前と同じです。
また使用者の承認、差押え、仮差押えなどで時効は中断するということも覚えておきましょう。時効中断の効力は、6か月以内に裁判などの訴えを起こさなかった場合に失われます。
・参考サイト:労働基準法 | e-Gov法令検索
賃金の定義だけでなく周辺知識や関連法も理解しておこう
賃金の定義はわかりにくいだけでなく、関連用語や周辺知識も多岐にわたるため、それぞれをしっかり理解しておくことが大切です。
給料や給与、報酬など紛らわしい言葉もあり、混同して使われることも多いため注意が必要となります。
賃金の支払いについては、賃金支払の5原則や時効のこともよく理解しておくべきです。経営者や経理担当者であれば、賃金に関する全般的な知識と関連法を理解し、違法な賃金支払いなどが起こらないよう気をつけましょう。
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