スリラー映画

繰り返し見て印象が変わる『悪の教典』の二度見ポイント3つ! ただのサイコキラー作品ではない?【映画レビュー(ネタバレあり)】

上映日:2012年
製作国:日本
上映時間:129分

監督:三池崇史
原作:貴志祐介
脚本:三池崇史
主題歌/挿入歌:THE SECOND from EXILE
出演者:伊藤英明、二階堂ふみ、染谷将太、林遣都、山田孝之、松岡茉優、工藤阿須加

あらすじ:

ハスミンというニックネームで呼ばれ、生徒たちから圧倒的な人気と支持を集める高校教師・蓮実聖司(伊藤英明)。生徒だけでなく、ほかの教師や保護者も一目を置く模範的な教師だったが、その正体は他人への共感や良心を持っていない反社会性人格障害者であった。学校と自身に降り掛かったトラブルや障害を取り除くために、平然と殺人を犯しては校内での地位を強固なものにしていく蓮実。しかし、ささいなミスから自身の凶行が知られそうになってしまう。それを隠そうと悩んだ彼が導き出した答えは、クラスの生徒全員を殺すことだった。

『悪の教典』予告編

『悪の教典』シングメディア編集部レビュー

「ただただ、胸糞悪い映画だった」という感想を持つ方も多いかもしれない。

貴志祐介氏による小説を実写化した『悪の教典』は、表では人気者、裏では自分にとって都合の悪い人間を次々に殺害していくサイコキラーというふたつの顔を持つ教師・蓮実聖司が、とある出来事をきっかけにクラスメイト40人を手にかけていくサイコ・ホラー作品。

その衝撃性から、思わず目を伏せてしまいたくなる展開も多々あるため、初見時では「ただサイコパスが暴走していた」としか思えなかった人だっていることでしょう。

しかし小説と漫画、どちらの原作ファンでもある筆者といたしましては、『悪の教典』は繰り返し鑑賞することにより、登場人物たちの細かい心理描写や、豪華俳優人たちの演技力のすごさを知れる作品だと思うのです。

「悪の教典」の二度見ポイント1:終盤だけじゃない! 序盤からハスミンのサイコキラーの片鱗は見えていた

まず今作を語るうえで外せないのが、伊藤英明さん演じる教師の蓮実聖司こと、ハスミン。

もう本当に伊藤英明さんの演技は素晴らしかった! 正直実写化が決まったとき、あの『海猿』で正義感の強い海上保安官を演じていた伊藤さんがサイコキラーなんてむちゃぶりすぎないか? なんて思っていたのですが、『悪の教典』を鑑賞して、伊藤英明という役者が本当にすばらしい人であることを改めて再確認させられました。

特に伊藤英明さんの何がすごいかって、サイコキラー役を最初から最後まで完璧に演じ切っていることなのです。

「悪の教典」の二度見ポイント1

序盤でハスミンがサイコパスであると気づくシーン

そもそも、この蓮実聖司ことハスミンは、教員生徒たちから慕われる人気者の教師。女子生徒の間では、ハスミン親衛隊なるファンクラブ的なものまでできてしまうなど、とにかく非の打ち所がない完璧な男性教師なのです。

おそらくサイコキラーとしての本性を表す前の彼だけを見ていれば、「学校にひとりはこんな先生がいてほしい」と誰もが思うことでしょう。

とはいえ、そんな彼も終盤に近付くにつれ徐々にそのサイコキラーとしての本性をあらわにしていきます。そのあまりの変貌ぶりに、初めて鑑賞した際は驚きを隠せなかった人も多いはず。

しかし実は、映画『悪の教典』では、まだ序盤で人気者の教師を演じていたハスミンの何気ない言動から、彼がサイコパスである一面を垣間見られるシーンがあったのです。

自分の意見を否定されたときに見せた表情

たとえば冒頭の職員会議でのシーン。この場面では、テストでカンニングをする生徒の不正をどのように対処するか、という議題で会議が進められています。

そこでハスミンが提案したのは、「彼らは携帯電話を使ってカンニングをしているから、妨害電波を出して携帯電話を使えないようにしちゃおう!」という驚きの提案。

もちろんこれには校長も「いやでも、カンニングを防ぐために法令違反を犯すのはちょっと本末転倒だよね~」とあっさりと却下。まあ、そうなりますわな。

そして! ここでご注目いただきたいのは、この校長の意見を聞いた後にハスミンが見せた一瞬の表情! 先ほどまでは、爽やかな笑顔で意見を語っていた彼ですが、このほんの一瞬だけ、めちゃくちゃ人を見下すかのような目を見せているのです! その表情がめちゃくちゃ怖い! なんなら、終盤に出てくるサイコキラー化したときと近い表情をしているのです!

周りの教職員は一切気づいていませんでしたが、この時点からハスミンのサイコパスの片鱗は見え始めていたのです。

共感能力に欠けている部分が見えた瞬間

さまざまな問題を抱えているハスミンのクラス。そのひとつが、クラスメイトである清田梨奈に対するいじめ問題。

そしてこのいじめ問題に対して学校側が何も動かないことに腹を立てた、清田梨奈の父・清田勝史が何度も学校に足を運び、教頭とハスミン相手に詰め寄ります。

その際、清田梨奈の父は、学校の裏掲示板で娘の悪口が書かれていることを証拠として提出するのですが、あくまでもハスミンは「まあ、こういうのはガス抜き的な愚痴の類ですからね」と発言。おまけに「お父さんだって愚痴を吐く場も必要でしょ?」とまさかの相手を煽るような発言を。

これには清田父も「俺がここにガス抜きに愚痴吐きにきているんじゃないかって言いたいのか?」とブチ切れ。それに対しハスミンは、「……いいえ、とんでもない」と一応は否定するものの、明らかに「えっ、そうじゃないんですか?」と言いたい様子。いやもう、ブチ切れる相手を前に煽りに煽りまくっています。

このやりとりの何が怖いかって、これまで清田父に対して冷静に完璧な対応をこなしてきたハスミンが、このときだけは「このおっさん何を言っているんだ?」と言わんばかりに、自分の意見を主張して相手の話にまったく耳を傾けようとしない態度を見せているのですよね。

常にどのような問題に対しても完璧な対応を心掛け、相手に合わせる姿勢を見せてきたハスミンが、ほんの一瞬見せたこの共感能力に欠ける発言というのは、サイコパスの典型的な特徴でもあるのです。

まだまだある、ハスミンのサイコパスが垣間見える瞬間

そのほかにも、男子生徒と恋愛関係にある教師を脅す際に見せた一瞬の笑顔や、相手を信じ込ませるためにまったくの嘘をまるで事実かのようにスラスラと語る様子からは、ハスミンがいかにIQの高いサイコパスであるかを垣間見ることができます。

おそらく初見の際は、中盤から終盤にかけてのハスミンのサイコキラーぶりに目を奪われた方も多いかと思いますが、二度見ではあえて序盤のハスミンの発言や表情に注目してください。

きっと「この瞬間からサイコパスの一面が見えていたのだ!」という新たな発見に驚かされるはずです。

「悪の教典」の二度見ポイント2:見逃しがちな有名俳優陣と豪華ゲストの登場

実写映画版『悪の教典』は、伊藤英明さんをはじめ、生徒役の二階堂ふみさん、染谷将太さん、林遣都さんなど、豪華俳優陣が出演していることでも話題の作品。

しかし中には、初見ではまったく気づくことなく、後になって「えっ、あの人も出ていたの?」と気づく有名俳優さんたちも数多く出演しているのです。もう本当に良い意味で、有名俳優の無駄遣いをしまくりです。

もし最初の鑑賞で見逃してしまった方がおられましたら、二度見ではそんな密かに出演しつつも、めちゃくちゃ良い演技を見せてくれている俳優さんたちに注目してみてください。

「悪の教典」の二度見ポイント2

初見では見逃しがちな、実力派俳優・工藤阿須加さんの登場シーン

まずは、今をときめく実力派俳優の工藤阿須加さん。

いや、本当にすみません。筆者も今作を2~3度は鑑賞しているのですが、正直、工藤阿須加さんがどこに出演しているのか、まったく気がつきませんでした。

で、改めて見直してみると……。いました! 英語の授業で秀才の渡会くんが回答したあと、「まあ、これでも本気で東大目指しているので」とドヤ顔で答えた後、思いっきり後ろから中指を立てている生徒! 君が工藤君だったのか!

でも、なぜ、何度鑑賞しても工藤さんに気づけなかったのだろうかと思っていたのですが……。

それもそのはず。ハスミンがクラスメイトたちを次々に殺害していく終盤のシーンで、たびたび工藤さん演じる松本君も映ってはいるのですが、そのほとんどが他のクラスメイトの顔とかぶって、まさかの画面に映り込んでいないという。

おまけに、最後の方まで彼は生き延びるのですが、最終的には追いかけてきたハスミンにあっさりとやられてしまいます。もうほんの一瞬の出来事であるかのように、あっさりとやられてしまいます。

ただその一瞬のシーンをじっくり観察してみると、パニックに陥りつつも、最後まで生きようとする工藤さん演じる松本君の必死さが伝わってきます。同時にこのときから、本当に実力のある俳優さんであったということが改めてわかるシーンだったのです。

今とはまた違った印象の実力派若手女優・松岡茉優さん

同じく今をときめく実力派若手女優である、松岡茉優さん。

彼女が演じたのは、白井さとみという女子生徒の役。そうです、あのアーチェリー部の高木翔を助けるため、ロープを使って校舎を抜け出し、そのまま校庭でハスミンに打たれてしまった、あの女子生徒です。

今現在は、ボブカットで爽やかなイメージのある松岡さんですが、今作では長い髪を結び、どこか幼さの残る印象があります。それもあり、他の生徒たちと比較すると登場シーンが多いにもかかわらず、彼女が松岡さんであることに気がつかなかった人もいるかもしれません。

ただ、この頃から変わらずに演技力は高かったのだなということを実感させられます。

いつ猟銃で打たれるかわからない状況でありながらも、両想いの男子生徒を助けにいくため、必死でロープを降りていくときの悲痛な叫び声。そして目の前で思いを寄せる相手が打たれたときに見せる、あの表情。

そんな松岡さんの迫真ある演技からは、思わず涙を誘われてしまいそうになります。

ただただ、山田孝之の無駄遣い

そして、おそらく『悪の教典』において、ベストオブ俳優の無駄遣いといっても過言ではないのが、山田孝之さん演じる体育教師の柴原徹朗。

いやもう本当、いろんな邦画作品を見てきましたが、ここまで山田孝之を(良い意味で)無駄遣いしている作品は、『悪の教典』しかないと思います。

女子生徒にセクハラをしたり、威圧的な態度で生徒を攻撃したりと、いわゆるモンスターティーチャーである柴原ですが、まあ、ほとんど登場シーンはないですよね。

おまけに、セクハラをしていた女子生徒のパンツをハスミンから渡され、そのパンツを嗅いでいる間に猟銃で撃たれて退場という、今作において、一番恥ずかしい死に方をしてしまった柴原。でもこれ、山田孝之さんだからこそ、シュールで笑えてしまうのですよね。

そんなほとんど登場シーンがないにもかかわらず、鑑賞後は、もはや伊藤英明さんのサイコパスぶりと、山田孝之さんのシュールさしか頭に残らなかった方も多いはず。本当にこのシーンだけは、一度だけに限らず、何度見ても笑えると思います。

まさかの豪華ゲストも出演していた

また『悪の教典』には、豪華俳優陣だけでなく、意外な豪華ゲストも登場しているのです。それが冒頭の職員会議のシーンで、「蓮実先生、頑張ってください」と声をかけてきた教師。

実はこの教師こそ、小説原作者である貴志祐介さんなのです! 実写映画化に原作者がゲスト出演って、かなりテンションがあがりません? あれ、筆者だけかな?

……と、そのような感じで、『悪の教典』では、初見では見逃してしまいがちな俳優の方や、何度見ても楽しめる山田孝之さんの演技など盛りだくさんであるため、二度見の際はそこに注目してみるとおもしろいかもしれません。

「悪の教典」の二度見ポイント3:カメラワークに注目するとまた違う恐怖が味わえる

『悪の教典』を一度でもご覧になった方のほとんどが、強く印象に残っているシーンといえば、やはり終盤の大量殺人のシーンではないでしょうか。

このシーンの何が怖いかって、流れているBGMが『悪の教典』のテーマ曲でもある、『Mack The Knife』であること。ハスミンが猟銃を手にクラスメイトを次々に殺害していく恐怖描写の裏で、軽快な音楽が流れることにより、なんとも言えない不気味さが漂ってくるのです。

しかしこの終盤のシーンに恐怖を植えつけているのは、何も音楽だけではありません。

実はカメラワークの見せ方により、私たちは知らぬ間に無意識の恐怖を覚えさせられていたのです。

「悪の教典」の二度見ポイント3

さっきまでいた相手が消えたときの恐怖

たとえば謎の殺人鬼が校内に侵入したと言われ、パニックに陥る生徒たち。それをハスミンは職員室の防犯カメラの前で観察しているのですが……。

何と数分後のシーンでは、ハスミンの姿が消えているのです! 先ほどまでそこにいたハスミンの姿はなく、ただ彼が座っていた椅子だけが残されている。

よくホラーゲームなどでも、一瞬目を離した隙にお化けの姿が消え、どこから近づいてくるかわからない恐怖が生まれることがありますが、まさにこのシーンもそれと同じ。ただハスミンの姿が消えただけなのに、それだけで「奴が動き出した! 近くまで迫ってきているぞ!」という状況が一瞬にして呑み込めてしまうのです。

なぜだかわからないけど背筋がぞっとしてしまいそうになるこのシーンは、そんな見えない敵がどこから迫ってくるかわからないということを、姿を消すというカメラワークだけで表現していたのです。

壁一枚向こうの光景が見えてしまう恐怖

また屋上前の階段に数人の生徒が追い込まれたとき、ハスミンは無表情のまま生徒たちをひとりずつ打っていきます。もうとにかくショッキングなシーンではあるのですが、実は直接的に生徒たちが打たれている描写は一切ないのです。

それにもかかわらず恐怖を覚えてしまうのは、一発ごとに飛び散る血しぶき。生徒を一発撃つごとに、天井まで血しぶきが飛び散る描写がずっと続くのです。

その描写だけで、見えない壁の裏でどのような事態が起こっているかが目にとるようにわかります。

先ほどのカメラの前から突然ハスミンの姿が消えるという恐怖と同じく、こちらも直接的に何が行われているのかが見えないからこそ、かえって怖く感じてしまうのかもしれません。

見える敵よりも見えない敵の方が怖い

さらには廊下を曲がった先で、突然生徒が打たれたり、倒れた生徒の姿だけが映ったりと、『悪の教典』では絶妙なカメラワークにより、「その先にハスミンがいるのだ」「この子もハスミンにやられたのだ」と気づかされるシーンが多々あります。

このようなカメラワーク使いを見ていると、三池崇史監督のすごさを改めて実感します。同時に、見える敵よりも見えない敵の方が実は怖いという事実を教えてもらえるのです。

初見の際になんとも言えない恐怖を感じた方は、もしかするとこのカメラワークにより、見えない恐怖を植えつけられていたのかもしれません。

二度見ではそんなことも考えながら鑑賞してみると、初見時以上に、見えない敵がもたらす恐怖を味わえるのではないでしょうか。

『悪の教典』は繰り返し見るごとに、違った印象を受ける作品

“サイコキラーが引き起こす事件”という一点だけに目を向けてしまいがちな『悪の教典』ですが、俳優一人ひとりの細かい演技や、カメラワークなどに目を向けてみると、これまでとは違った見方ができます。

特に一度目の鑑賞において「胸糞悪い映画だった」「バッドエンドで気持ちが落ち込んだ」という印象しか残っていない方は、このように違った方向から二度目の鑑賞をしてみてはどうでしょうか。

『悪の教典』は、繰り返し見るごとにまた違った印象を受ける映画だと思います。

そして可能であれば、一度原作をご覧になったうえで二度目の鑑賞をしてみると、登場人物たちにも感情移入がしやすくなるはずです。

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WRITTEN BY
シングメディア編集部

映像・動作制作を手掛けるTHINGMEDIA株式会社のメンバーで構成しています。制作現場で得た映像・動画の知見をお伝えしていきます。