サスペンス映画

見れば見るほど深く考えさせられる映画『八日目の蝉』の二度見ポイント【映画レビュー(ネタバレあり)】

上映日:2011年
製作国:日本
上映時間:124分

監督:成島出
主題歌/挿入歌:中島美嘉
出演者:井上真央、永作博美、小池栄子、森口瑤子、田中哲司、市川実和子、余貴美子、平田満、風吹ジュン、劇団ひとり、田中泯

あらすじ:

子どもを身ごもるも、相手が結婚していたために出産をあきらめるしかない希和子(永作博美)は、ちょうど同じころに生まれた男の妻の赤ん坊を誘拐して逃亡する。しかし、二人の母娘としての幸せな暮らしは4年で終わる。さらに数年後、本当の両親にわだかまりを感じながら成長した恵理菜(井上真央)は大学生になり、家庭を持つ男の子どもを妊娠してしまう。

『八日目の蝉』予告編

『八日目の蝉』シングメディア編集部レビュー

愛する母親だと思っていた人は、自分を誘拐した犯人だった。

そんな衝撃的な展開で幕を開けた『八日目の蝉』は、原作である小説をもとにテレビドラマ化、映画化までされた作品でもあります。

原作の小説を始め、映画もかれこれ5回以上は鑑賞している筆者ですが、今作は何度見てもラストシーンのあとに何が正解で何が間違いかがわからなくなってしまうほど、深く考えさせられる作品だと思っています。

今回はそのように十人が見たら十通りの感想が出てくるであろう、映画版『八日目の蝉』の二度見ポイントについてご紹介いたします。

3つの二度見ポイント

「八日目の蝉」の二度見ポイント3つ

「八日目の蝉」の二度見ポイント1:初見とは違う人物の視点に立って鑑賞をしてみる

おそらく女性の方であれば、今作を鑑賞した際、必ずや誰かしらの立場に感情移入して物語の展開を見守っていたのではないでしょうか。

幼少期に誘拐され、その犯人を母親だと信じて育ってきた主人公の秋山恵理菜(井上真央)。
恵理菜を誘拐した張本人である野々宮希和子(永作博美)。
そして生まれて間もないわが子を突然誘拐された、恵理菜の実の母親である秋山恵津子(森口瑤子)。

この三人の誰かに感情移入することにより、今作では物語の中により一層ぐっと引き込まれます。

ただあえて二度見の際は、あえて初見とは違った登場人物の視点に立って鑑賞してみると、映画の世界観がまた違って見えてくるのです。

「八日目の蝉」の二度見ポイント1

誘拐された張本人として本心を隠して生きてきた、恵理菜

生後4か月から4歳までの約4年間。誘拐犯である野々宮希和子に育てられ、彼女を本当の母親だと思って生きてきた恵理菜。

しかしついに希和子の逃亡生活も終止符をむかえます。とはいえ逮捕時に希和子と引き離され、実の両親のもとに無事戻るものの4歳の子からすれば「本当のママと引き離されて、知らないおじさんおばさんと暮らすことになった」「どうしてこの人たちを今日からお父さん、お母さんと呼ばなければいけないの?」という状況でパニック状態になります。いやもう、そりゃそうですよね。

それもあり事件後も家族の関係はぎくしゃくしたまま。恵理菜も普通の家庭というものがわからないまま大人になってしまいました。

そんな生活を過ごす中で恵理菜は、まさかの不倫相手の子を妊娠。普通の家庭や家族の幸せがわからない自分に子どもが育てられるかわからないと悩む中、幼少期に希和子と過ごした日々の足取りをたどる旅に。

そこで徐々に希和子に愛されていた記憶を思い出し、ラストシーンではお腹の子が産まれたら精一杯愛してあげようという決意のもと幕を下ろすのですが……。

このなんとも言えない展開。特に実の母親からすれば、自分ではなく誘拐犯と過ごした記憶によって恵理菜に母性が目覚めたなんてわかったら、もう悔しくて希和子に復讐してやりたい思いでいっぱいになるでしょう。

しかしラストシーンで恵理菜が叫んだ「誰も憎んではいけないと思っていた」という悲痛な叫び。それを聞くと彼女がこれまでいかに「実の母を好きにならないといけない」「誘拐犯は憎まなければいけない」と頭では分かりつつも、心がついてきていなかったことがうかがえます。

そしてその本心を隠したままこの十数年間を彼女は生きてきたのだなと考えると、思わず胸が張り裂けそうになってしまうのです。

加害者であり誘拐犯であるのになぜか憎めない、希和子

生後4か月の恵理菜を誘拐した張本人である、野々宮希和子。

そもそも彼女は恵理菜の実の父である秋山丈博(田中哲司)と不倫の末、妊娠。しかし丈博から子どもを堕ろしてほしいと頼まれ、それを機に二度と子どもが産めない体に。おまけにそのタイミングで恵理菜を身ごもった丈博の正妻である恵津子から、これでもかというほど嫌がらせを受け……。

もう精神的にいっぱいいっぱいの状態だったのでしょうね。それが引き金になったのか、出来心で今回の誘拐事件を起こしてしまいます。

まず当たり前ではありますが、道徳的に不倫はもちろん、誘拐なんて絶対にしてはならないこと。

ただ物語が進むにつれ、希和子がただ「子どもを育ててみたかった」というたんなる“家族ごっこ”がしたかったのではなく、自分が産んであげることができなかった子どもへの贖罪の気持ちもあり、本気で恵理菜を愛し、この子のためなら何でもする覚悟で生きていることがわかります

なにより印象的だったのは、終盤で希和子が逮捕され恵理菜と引き離されるシーン。連行される希和子は「待ってください!」と声を荒げながら「その子はまだご飯を食べていません。よろしくお願いします。」と一言放ち、警察の方に向けて頭を下げまず。この最後の最後まで恵理菜が彼女のすべてだったのだと思わされる一場面。

誘拐犯であり、かわいい盛りの子供の4年間という時間を奪った罪は決して許されないものの、なぜか希和子を心から憎めない。

そしてもしあのとき、丈博との子どもを降ろさずに産んでいたら、希和子も出来心からこのような誘拐事件を起こすこともなく、実の子どもに深い愛情をかけてあげるやさしい母親になっていたのかも。そう思うとなんともやりきれない思いすらわいてきます。

今作において一番の被害者でもある実の母親、恵津子

法的に見れば、加害者は希和子で被害者は誘拐された恵理菜です。

しかし今作において、本当に一番の被害者であるのは恵理菜の実の母親である恵津子だったのかもしれません。

おそらく恵理菜を妊娠した当初は、これから明るい未来が待っていると信じてやまなかった恵津子。それが少し目を話した隙に愛するわが子を誘拐され、毎晩、子どもの泣き声が聞こえるような気がしてろくに眠れない4年間を過ごす。

そしてようやくわが子が戻ってきたかと思えば、今度は実の子である恵理菜から「知らないおばちゃん」扱いをされ、そのまま普通の母と娘の関係が築けないままその後の十数年間を過ごすことになります。

そんな恵津子の苦しみが痛いほどわかるのが、冒頭の裁判シーン。まったく反省の色を見せない希和子に向かい、傍聴席から恵津子が「死んでしまえ、死ねばいい。死ね!」と声を荒げる場面がありましたが、おそらく実際に子を持つ女性の方からすれば、このときの恵津子の気持ちが痛いほど伝わってきたのではないでしょうか。

また作中ではヒステリックな母という形で描かれがちな恵津子でありましたが、一度だけ恵理菜の前で泣き崩れながら、「恵理菜ちゃんに好かれたいの……」という本音を口にします。

この一言により、子どもを産んだ瞬間から描いていた幸せな未来を一瞬にして奪われ、娘の体は戻ってきても心は二度と自分のもとに戻ってこないという苦しみを味わいながら、彼女は毎日の生活を過ごしてきたのかなと。そんな誰よりも苦しんできた恵津子こそ、今作において一番の被害者なのかもしれません。

全員に感情移入ができ、全員に同情してしまう作品

誘拐事件の被害者と加害者。この一言だけを見ると、加害者である希和子だけが悪者であるかのように思えます。(いや、実際に加害者側なので悪者ではあるのですが……)

ただそれぞれの視点から鑑賞をしてみると、全員に感情移入ができ、全員に同情してしまう。法的な善悪だけでは語りつくせない、それぞれの強い思いがひしひしと伝わってくる。

そんな三者三様の心境に思わず引き込まれてしまう今作。それぞれ視点から登場人物の心境を考えるだけでも、二度見、三度見の価値はあると思います。

「八日目の蝉」の二度見ポイント2:安藤千草役を演じた小池栄子さんの演技力のすばらしさ

今作では恵理菜、希和子、恵津子という当事者三人の心境に注目をしてしまいがち。

しかしこの三人と合わせて注目していただきたいのが、安藤千草役の小池栄子さん。

数々の作品でその演技力の高さが絶賛され、ときに主人公以上に大きな反響を得ることもある小池栄子さんの演技。今作でも彼女の演技力のすばらしさに思わず引き込まれてしまうシーンが多々あるのです。

「八日目の蝉」の二度見ポイント2

不審者感満載の登場シーン

物語の序盤で突如、恵理菜の目の前に現れたのが小池栄子さん演じる安藤千草。

自身はフリーライターで誘拐事件の記事を書きたいという名目で、その後も恵理菜の目の前にたびたび現れるのですが。

とにかく登場時からの不審者感がものすごく強い! 猫背気味で小走りで恵理菜につきまとう姿はどこからどう見ても不審者でしかありません。おまけに話し方も早口で、怪しい人感が満載。もし自分の目の前に現れたら「あっ、こいつやべえ奴だ」と思って即刻逃げるか警察に駆け込みますよね。

でもなぜかそんな不審者感だらけの千草に心を許し始める恵理菜。というのも実はこのふたり、恵理菜が誘拐されていた幼少期の頃に一時期同じ施設で姉妹のように育っていた仲だったのです。

彼女にもつらい過去があると思わされる迫真の演技

その後もゆっくりではあるものの距離を縮め始める恵理菜と千草。最終的には誘拐されていた当時の足取りを探す旅にふたりで出かけることに。

その旅の途中で恵理菜の過去が徐々に明らかになると同時に千草も自分が男性恐怖症であることや、恵理菜を本気で信頼していることを口にしていくのですが……。

その演技がものすごく自然なのですよね。恵理菜に一度愛想をつかされそうになったときは、必死で彼女を引き止めようと慌てふためく様子を見せるのですが、その様子がとにかく自然で恵理菜から離れたくないという心境がひしひし伝わってきます。

また男性恐怖症をカミングアウトした際も、「男性が怖い」と口にしただけでパニックに陥りそうな様子を見せ、本当に男の人を恐れているのだという千草の心境をこれでもかというほど細かい演技で表現。

もうこの頃になると登場時の不審者感は一切なく、反対に彼女も恵理菜とはまた違ったつらい過去を背負い、悩み苦しみこれまでの人生を生きてきたのかもという推測ができてしまうほど、小池栄子さん迫真の演技にくぎ付けになってしまいます。

他作品で見せる気の強い女とは一味違う小池さんの演技に注目

その他にも恵理菜のために涙を流す場面では、ただ同情しているだけでなく、本気で恵理菜の心に寄り添っているのだということが表情のみから伝わってきたり、普段は明るくふるまうもののどこかで暗い影のようなものをちらつかせる繊細な動きを見せたりと、とにかく小池さんの演技は自然体でありながら、見ている側を引き込ませてしまいます。

また他作品では気の強い女性を演じることも多い小池さんですが、今作ではお伝えしてきた通り、どこか不安定でありながらも明るく憎めない人物像を演じています。

そんな彼女の演技を見ていると、どのような役にも入り込むことができ、すべてを完璧に演じることができる女優さんなのだなと改めて実感させられる限りです。

二度見では他の登場人物だけでなく、小池さん演じる千草の一言一句のセリフとともにそのときの心境にも目を向けて鑑賞してみてはいかがでしょうか。

「八日目の蝉」の二度見ポイント3:暗い展開続きの中で明るい気分になれる小豆島のシーン

誘拐がテーマということもあり、暗い展開が続くこともしばしばである今作。

とはいえ今作はただ暗くて重いだけの作品ではありません。ぱっと明るい気分になれ、ちょっとした非日常感を味わえる場面もあるのです。

それが恵理菜と希和子が最後の逃亡先に選んだ、香川県にある小豆島を映し出した画です。

「八日目の蝉」の二度見ポイント3

多くの自然が物語る島の美しさ

日本でも有名な観光スポットのひとつでもある、香川県の小豆島。

今作では終盤で小豆島の魅力がこれほどかというほど描かれております(余談ですが、筆者が今作を映画館に見に行ったときには小豆島のオリーブが入場者全員にプレゼントされていました)。

中でも私たちの目をくぎづけにしたのが、寒霞渓をロープウェイでのぼった先から見える街並みと海。このシーンでは小豆島全体を上から見下ろすことができ、思わず自分が観光しているような気分になれます。

また夕日が沈む際に浜辺を走る、幼き頃の恵理菜を映し出したシーンも情緒あふれる画であり、島の美しさを物語っている一場面でもありました。

現地に行かないと体験できないイベントの数々

また作中に登場するのは、美しい自然だけではありません。

国指定重要文化財である『農村歌舞伎』の上演や、約300年前から伝わるとされる伝統行事『中山虫送り』など、現地に行かなければまず体験できないイベントを目にすることができます。

他にも多くの神社があることで知られる小豆島。その内部の様子まで映し出されるシーンなどもあり、暗く重い展開続きの物語の中でも唯一この小豆島のシーンだけは、自分が観光しているかのような疑似体験気分を味わえる、貴重な場面なのです。

有名な『小豆島手延べそうめん』でまさかの飯テロに

そして自然、イベントときたら、次にお楽しみなのがグルメ。

小豆島ではオリーブに並んで有名な『小豆島手延べそうめん』。

逃走中の希和子も縁あって、手延べそうめん工場で働かせてもらうことになるのですが、普段そうめんを作っている工場内の様子などまず見る機会がありませんよね? そんな貴重な映像がこれでもかというほど映し出されているため、『小豆島手延べそうめん』がどのような工程で作られているのかがよくわかります。

おまけに途中では恵理菜と希和子がおいしそうにそうめんを食べる画が登場します。それがとにかくおいしそうなのです。まさかシリアスな作品で突然の飯テロにあうとは、誰もが夢に思っていなかったでしょう。

重苦しい展開続きだからこそ、ひとときの明るい気分を

重苦しい気持ちで物語の展開を見守り、鑑賞後は深く考えさせられることも多い今作。

ただ小豆島のシーンだけはそのように暗い気持ちもどこへいったかと思うほど、楽しんで見守ることができます。

何度見ても癒される自然たっぷりの小豆島の画。二度見の際はひとときの休息気分を味わって癒されるもよし、小豆島観光を考えているのであれば事前の鑑賞で疑似体験気分を味わうもよし。ぜひ小豆島の魅力を堪能してみてください。

鑑賞するたびに違った感想を抱く深い作品

誘拐をした側とされた側とその周りの人々の苦悩や葛藤を描く、『八日目の蝉』。

おそらく一度でも鑑賞した方であればラストシーンを見終わった後に深く考えさせられたはず。中には登場人物に感情移入し、涙をこらえきれなかった方だっているのではないでしょうか。

しかし今作は自分の年齢や環境が変わるごとに改めて見ると、前回鑑賞したときとはまた違った感想を抱く作品。そのため何度見ても違う感情が芽生え、そのたびに深く考えさせられるのです。

数年前に見たきりで終わっているという方がいれば、ぜひ一度、久しぶりに鑑賞してみてください。きっと当時とは違った感情が生まれてくるはずです。

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WRITTEN BY
シングメディア編集部

映像・動作制作を手掛けるTHINGMEDIA株式会社のメンバーで構成しています。制作現場で得た映像・動画の知見をお伝えしていきます。