あらすじ:
江戸中期、財政の逼迫(ひっぱく)した仙台藩が領民へ重税を課したことで破産や夜逃げが続出し、小さな宿場町・吉岡宿は困窮し切っていた。このままではダメだと考える商人・穀田屋十三郎(阿部サダヲ)と同志たちは、藩に金を貸し付け毎年の利息を住民に配る「宿場救済計画」を考えつく。町の存続を図るため、前代未聞の金貸し事業を成功させるべく、彼らは私財を投げ打ち……。
『殿、利息でござる!』予告編
『殿、利息でござる!』シングメディア編集部レビュー
軽快な音楽が流れる予告動画に、ちょんまげ代わりの銭がひときわ輝く映画ポスター。誰もがコメディ作品だと信じて疑わなかった映画『殿、利息でござる!』ですが、蓋を開けてみれば、実話を基にした感動作品で、思わず泣かされてしまった方も多いのではないでしょうか。
人のやさしさに触れ、涙したいときにはぴったりの一作ですが、実は違った方向から楽しめる鑑賞方法もあるのです。今回は笑って泣ける『殿、利息でござる!』の二度見ポイントについて、ご紹介します。
『殿、利息でござる!』の二度見ポイント1:表情だけで笑わせるシュールなコメディシーン
宿場町の窮地を救う人々の姿に涙を誘われる今作ですが、主役の穀田屋十三郎を演じたのが俳優の阿部サダヲさんということもあり、作中では、たびたびシュールで笑えるシーンも盛りだくさん。特に今作は、阿部さんを中心にしたキャスト陣の表情のみの演技がすばらしく、何度見返しても楽しめるシーンが多くあります。
表情だけで会話を成立させる十三郎
作中でたびたびシュールな表情を見せてくれた、阿部サダヲさん演じる穀田屋十三郎。特に序盤、今作の舞台である宿場町・吉岡宿を救うための案を篤平治に問いかけるシーンでの表情の変化は、繰り返し見たくなる中毒性があります。
篤平治に対し、「頑張る?何を?」と少年のようにまっすぐな瞳で問いかけるあの表情!そして篤平治の返事に対し、「(いやそういうことじゃなくて……)」と言わんばかりの絶望感を醸し出したあの表情!何か言いたげにチラッと横目で篤平治を見る瞬間の表情が何ともシュールで笑えます。
その他にも肝煎を同士に加えた直後に、篤平治から大肝煎にも話を付けに行くと言われたときの「(そうなの?)」と言いたげな表情や、大肝煎の玄関先に置いてある雨傘を見たときの「(本物の雨傘じゃん!)」と何とも言えない切なげな表情。セリフが一切ないシーンであるにもかかわらず、表情だけで会話をして笑いをうむ演技は、何度見ても感動できます。
悲し気な表情で笑いを誘う十兵衛
シュールな表情で語りかけてくれるのは、何も十三郎だけではありません。序盤で十三郎がひとり目の同志として、篤平治のもとに連れてきた叔父の十兵衛にもご注目を!「お上に銭を貸す」という計画について語り合う篤平治と十三郎ですが、このとき後ろにいる十兵衛の表情の変わりようが見ていて飽きないのです。
最初は儲け話だと思い、上機嫌で十三郎についてきた十兵衛ですが、ふたりの会話を聞いているうちに危険な話であると察知。みるみる顔がこわばっていきます。表情だけで「聞いていないけど?」「もしかしてやばい話?」と言いたげな雰囲気が伝わり、ふたりとの温度差のギャップに思わず笑いがこぼれそうになります。
篤平治と十三郎の今後を決めるうえでも重要なシーンではありますが、二度見ではぜひ、徐々に悲し気な表情を見せる十兵衛にご注目ください。
資金集めでもシュールな展開が盛りだくさん
肝煎と大肝煎も同志にくわえたところで、それぞれが私財を売り払い、藩に貸す資金集めを開始する十三郎たち。形見の物まで売り払おうとする十三郎が息子と衝突するなど、少しばかり重たい雰囲気が漂いますが、その一方で肝煎・幾右衛門は、換金価格に納得がいかず、目を見開きながら質屋に無言の圧をかけたり、十兵衛が最後まで春画を売るのをためらったりと、シュールなシーンがてんこ盛りです。
「十三郎にとっても辛い決心だったのだろうな」とか「売られる田畑を見て大肝煎は何を考えていたのだろうか」など、各々の心境が伝わってくるシーンでもあるのですが、完全に肝煎と十兵衛のシュールな表情に持っていかれました。
この資金集めのシーンは、二度三度見返しても、間違いなくクスっと笑えてしまう鑑賞ポイントのひとつだと思います。
高い中毒性をもたらすシュールな表情
今作はセリフでなく、シュールな表情で笑いをうむコメディ要素が盛りだくさんとなっています。絶妙な空気感とマッチしたキャスト陣の何とも言えない表情は、繰り返し鑑賞しても高い中毒性を味わえます。二度見では、それぞれの表情に注目しながら鑑賞してみてはいかがでしょうか。
『殿、利息でござる!』の二度見ポイント2:昔ながらの日本風景を堪能できる演出
数々の時代劇映画を生みだした、スタジオセディック庄内のオープンセットで撮影された今作。リアルなオープンセットを囲む自然豊かな土地で撮影されたとあり、今作では昔ながらの日本風景を堪能できます。
シーンにより表情を変える茶畑
作中でたびたび登場した、篤平治の茶畑。序盤で十三郎と十兵衛が訪れたシーンでは、あたり一面に広がる茶畑と茶摘み風景が画面いっぱいに広がり、鑑賞側もどこかほっこりさせられる癒しを与えてくれました。
しかし打って変わり、十三郎が弟である浅野屋に対する本音を篤平治に語るシーンでは、日暮れのどこか切ない茶畑へと早変わり。夏の終わりの夕暮れに虫の声が響くシーンは、哀愁が漂います。
同じ場所であるにもかかわらず、昼間と夕暮れではこんなにも見せる表情が違うのかと感動すらしてしまう、ふたつのシーンの対比。切なさがありながらも、なぜか心温まる風景です。
季節の移り変わりを美しく演出
中盤、仙台藩の出入司・萱場からの返事を待つシーンでは、景色の移り変わりにより、返事が来るまでに数か月以上経ったことをあらわしていますが、この景色の映し方が本当にきれいで、見ているだけで癒されてしまうのです。
あたり一面に広がる豊作の稲が揺れる映像で秋の訪れを表したかと思えば、次の瞬間、降り積もる雪で冬の訪れを感じさせる。先ほどまで明るい宿場町しか目にしていなかったためか、雪に囲まれた吉岡宿の風景は、どこか切なげで哀愁漂います。しかし美しい!
何てことない季節の移り変わりを演出したシーンではあるのですが、二度三度鑑賞していると、この風景の美しさに癒され、心までほっこりしてしまいます。
まだまだある、見どころの風景!
その他にも大肝煎が橋本権右衛門のもとにたどり着くまでの険しい山道であったり、仙台藩のシーンでたびたび映る広くも情緒あふれる庭園だったりと、背景を目にしているだけでも楽しめるシーンがたくさん登場しています。
また風景ではありませんが、おときの居酒屋で出される料理は、時代劇好きにはたまらないほど、忠実に再現されています。テーブルの上に並べられたお酒や料理を見ているだけでもテンションがあがります。
宿場町・吉岡宿の日常風景や細かいセットに注目するだけの鑑賞方法も、また一味違った見方ができ楽しいと思います。
時代劇好きにはたまらない景色が満載
初見では見逃しがちな背景の数々ですが、注意して鑑賞してみると、実は癒しとなるシーンが盛りだくさん。時代劇はもちろん、時代モノのアニメやゲームが好きな方なら、思わず興奮してしまうシーンも多く散りばめられています。二度見では物語と一緒に宿場町・吉岡宿の景色にも癒される鑑賞方法もおすすめです。
『殿、利息でござる!』の二度見ポイント3:初見と二度見で印象が180度変わる、浅野屋甚内
目先の利益関係なく、里や人を思う気持ちであふれた今作では、不意打ちのやさしさに触れる瞬間も多々あります。特に二度見で注目していただきたいのが、十三郎の弟である浅野屋甚内!今作では初見時と二度見時で、浅野屋の見方が180度変わってくるのです。
「守銭奴」と呼ばれた序盤のシーン
先代から引き継ぎ、浅野屋の当主となった弟・浅野屋甚内。当初は「ケチ」「守銭奴」と噂され、吉岡宿内での評判も良くありませんでした。実際に序盤では、今は亡き先代と同じく、お金にしか興味がないように描かれているシーンが中心です。
篤平治が借金の利息分だけを返しに行ったシーンでも「期待しているぞ」と嫌味ともとれる一言を投げかけたり、資金を出し合うシーンでは兄よりも多くの金額を出そうとしたりなど、とにもかくにもお金のことしか頭にない人物にしか見えませんでした。
実は良い人だったことが発覚!
しかし終盤に入ると、実は浅野屋は親子二代にわたり、伝馬役免除のためにコツコツとお金を貯めていた事実が明らかになります。そして浅野屋がきっかけとなり、暗礁に乗り上げていた計画も再び進み始めることに。
このシーンのあたりからラストにかけ、浅野屋甚内をよく観察してみると、序盤とは打って変わり、表情が柔らかくなっています。父親からの遺言で託された願いがようやく叶う安心感からか、まるで別人のように変わり、表情にもどこか明るさが戻ってきた気がします。
二度見では序盤から良い人に見える?
そして浅野屋甚内の本心がわかり、物語の流れを知ったあとの二度見では、再び、序盤の浅野屋甚内にご注目ください!
初見時は嫌味を言っているだけにしか聞こえなかった、篤平治が利息分を返すシーンですが、二度見時では浅野屋の「期待しているぞ」の一言が嫌味ではなく本心であることがわかるので、めちゃくちゃ浅野屋が良い人に見えるのです!(そもそも良い人なのですが)
また、兄より多く出資すると口にするシーンも、名誉を守るために大口を叩いているのではなく、本当に町の人々を思う気持ちからの発言だとわかります。
初見時では「何だか嫌な奴」だと思いがちだった浅野屋甚内ですが、彼の本心を知ったうえで二度見鑑賞してみると、180度見方が変わります。同じ人物であるにもかかわらず、初見と二度見でこれほどまでに印象が変わるのはすごすぎます。
二度見では印象がガラッと変わる瞬間を目にできる
今作におけるキーパーソンでもある浅野屋甚内は、初見時と二度見時では、まったく印象が変わる人物でもあります。当初は浅野屋甚内を嫌な奴だと思って鑑賞していた方は、二度見で彼の印象がガラッと変わる瞬間を目にしてみてください。
初見で涙した方は二度見で違った見方を!
笑いあり、涙ありの『殿、利息でござる!』は、何度鑑賞しても温かい気持ちにさせられる作品です。初見時は感動で涙したという方は、二度見ではちょっと笑える瞬間や作中の景色、浅野屋甚内の姿に注目しながら鑑賞してはいかがでしょうか。人のやさしさからたくさんの癒しを与えてもらえるはずです。
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