2020年4月7日、未曾有の感染症の脅威により、7都府県での緊急事態宣言が敢行され、同月16日には全国に広がる事態に。人々は自宅に閉ざされ、あらゆる行動が制限されました。ひとり、部屋で過ごす時間が増えたわたしたちを、たとえ隣にいれずともつなげてくれたのがSNSです。声の大小にかかわらず、様々な人がSNSで互いを鼓舞し合いました。そんな中、ハッシュタグを利用したプロジェクトが次々に立ち上がりました。趣味や関心を通じて、今だからこその新しいつながりをも創出してくれたように思えます。サッカー好きの間で、多く拡散されたハッシュタグが「#晴れたらみんなでボール蹴ろう」。
ハッシュタグがより拡がった後押しには、プロジェクトのテーマソングとも言えるGAKU-MCさんの書き下ろし楽曲「晴れたらみんなで」と、松永エイゾーさんが制作したMVの存在がありました。MVには、49人のサッカーファンがリモートで出演。さらに、プロジェクトに賛同した岩渕真奈選手(INAC神戸レオネッサ)、大久保嘉人選手(東京ヴェルディ)、岡部将和氏(ドリブルデザイナー)、齋藤学選手(川崎フロンターレ)、中村憲剛選手(川崎フロンターレ)、本田圭佑選手(ボタフォゴ)、山田大記選手(ジュビロ磐田)が動画提供で出演したことでも大きな話題を呼びました。
本記事では、GAKU-MCさんと、同曲のMVを制作した松永エイゾーさんへのインタビューをお届けします。グラウンドで走り回ることさえままならない中、全国のサッカーファンの支えとなった歌と映像の制作の裏側に迫ります。
ー楽曲が生まれた経緯を教えてください。
GAKU-MCさん:本プロジェクトの代表である小泉翔と、自宅待機をしている中でZOOMを利用して話をしていたんです。彼はサッカークラブ「TOKYO CITY F.C.」の運営に携わっていて、僕のサッカー仲間。その日も、ついつい口をついてでるのは「サッカーがしたい!」という言葉でした。年間約100試合はしている僕が、怪我以外でこんなにピッチを離れることはいままでありませんでした。ステイホームはもちろん守らねばならない。しかし、世間にはディフェンスを連想する言葉ばかり、我慢、我慢の毎日…。
そんな会話の中で、小泉が「晴れたらみんなでボール蹴ろう」と言ったんです。そのポジティブな言葉に、心がぐっと惹かれる感覚がありました。そこで、その言葉をもとに楽曲「晴れたらみんなで」を制作したんです。ちょうど、彼もこの言葉を基にプロジェクトを立ち上げようと仲間に声をかけていたタイミングだったみたいで。
松永エイゾーさん:小泉の感性で選んだコピーライターやデザイナー、SNSプランナー、PRマンなどスキルを持った友人を集めて、僕は映像ディレクターとして参加することが決まりました。小泉とはシェアハウスに同居していた仲で、現在はサッカー仲間。最初はなにを撮るかも決まっていなかったのですが、「GAKU-MCさんが曲を書き下ろしてくれることになったぞ…!」と連絡がきて。正直、「まさか」という感じでしたね(笑)せっかく制作されるなら、MVを制作してYouTubeで公開する運びになったんです。
ーGAKU-MCさんは、これまでもご自身の楽曲のMVに出演されてきましたが、今回はどのような点が異なっていましたか?
GAKU-MCさん:まず、メインの撮影場所が本物の自室ですからね(笑)普段は、もちろんスタイリストさんやメイクさんなどプロの手を借りる。そんな部分も自分で。寝起きだし、いつも着ている服だし…違う部分ばかりでしたよ。
松永エイゾーさん:自粛期間での撮影だったので、どうしても自宅で撮りたかったんです。GAKU-MCさんには、無理を聞いていただいて…(笑)素敵なお家だったので、とてもいい画が撮れました。
ーリモート撮影の作品は多々ありますが、選手を除いても49名もの人が出演する作品はなかなかないと思います。人数が多いからこその苦労もあったのではないでしょうか。
松永エイゾーさん:ZOOMの仕様の問題もあり、細かい部分まで指示をする必要がありました。たとえば、入る順番が決まっていたり、画面のオンオフができなかったり…。そんな指示を送る対象も多いので、説明資料を作成して、事前にそれを共有して本番の撮影に挑みました。
GAKU-MCさん:僕が25番目だったね。
松永エイゾーさん:はい。そうしたら、ちょうどGAKU-MCさんが真ん中に表示されるので。選手の動画を中央に写すカットでは、サッカースタジアムをイメージしているんです。求めたのは一体感。そのため、周りに映っている人たちは、中央に向かって声援を送っています。そういう動作に至るまでこだわりました。
ラストの青空のカットでは、一枚の青空の写真を49分割したものをZOOM背景に設定してもらって撮りました。ZOOMの画面表示サイズの問題で、編集ではひとりひとりの表示される枠まで調整を要し…皆さんの協力で、ZOOM画面のカットの撮影は40分ほどで完了しましたが、編集には1週間以上かかりましたね。
GAKU-MCさん:過去にも松永さんにMVを撮影してもらっていましたが、今回の作品を見て、改めてこだわりの強さに驚かされました。
ー多くの人を巻き込んでの制作だったことが、ハッシュタグの拡散をさらに加速させたのではないのでしょうか。
松永エイゾーさん:MV制作という名の、イベントでしたね。MVを撮ることに決め、大人数でのリモート撮影に挑戦することにして、常に僕はお願いする側だったので、「すみません、すみません」という姿勢でした。けれど、撮影が始まってみたら、参加者が楽しんで協力してくれて驚きました。きっと参加してくれた皆の胸にも同じ気持ちがあったと思うんです。リアルなイベントがなく、皆が自宅待機をしていたタイミングだったので…オンラインであっても「一緒に作る」という体験が創造できたことも意義があったと感じています。
GAKU-MCさん:普通にZOOMを利用しても、あんな大人数で映ることなんてそうそうないじゃん(笑)単純に、楽しかったよね。ZOOMで作品ができていく感覚を、多くの人と共有できてよかったと思います。
ー本田圭佑選手を始め、多くのサッカー選手もドリブルや練習風景の動画提供でプロジェクトに参加していましたね。どういったきっかけで実現したのでしょうか。
GAKU-MCさん:もともとサッカー仲間で、企画を説明したらみんな快く応じてくれました。普段からスポーツを通じて多くの人にパワーを与えてくれている存在なので、本プロジェクト以外にもたくさんの協力要請があったと聞きます。そんな中で、こちらの想いに耳を傾け、賛同してくれたことは非常に有難く受取っていました。
松永エイゾーさん:そうなんですよね、なるべくお忙しい選手の皆さんの負担にならないように配慮しました。お願いすることはシンプルにしながら、資料やサンプルの動画を用意し、目的も理解して欲しくて…。送られてきた動画を見て、皆さんがこちらの企画の意図を汲み取ってくださっていたことが伝わり、本当に嬉しかったです。プロジェクトメンバーのLINEグループでは、参加選手が決まるたびに、お祭り騒ぎのような盛り上がりでした(笑)皆さんの参加が、僕らの士気をさらに高めてくれたんです。
GAKU-MCさん:中村憲剛選手なんて、リハビリ中だったわけだからね。依頼をすること自体、どうなのって…(笑)
松永エイゾーさん:本当ですよ!たまたま中村選手のマネージャーと繋がっていたメンバーがいてお願いしたんですけど、そう言えば大怪我してたなと(苦笑)
いま振り返っても、選手の皆さんのお人柄にひたすら助けられましたね。感謝の気持ちでいっぱいです。
ーMIFA Football Park豊洲で、青空をバックに歌うGAKU-MCさんの画の鮮やかさが目に焼き付きました。
松永エイゾーさん:最初は、自宅撮影とZOOMで完結させる予定でした。しかし、緊急事態宣言の解除が決定されることになり、急遽、撮影を決行。それでも変わらずステイホームが推奨されていたので、最少人数で感染予防も徹底しながら撮影に臨みました。
GAKU-MCさん:2か月ぶりのコートでした。試合を…という願いが叶うことはまだ先だと分かっていても、それでも、青空の下に立って、芝生を踏みしめるのは最高に気持ちがよかったですね。ワンシーンだけ、ボールを蹴っている姿を撮って…。感激して、より「晴れたら”みんなで”ボールを蹴ろうぜ」という想いが深まる時間でした。
サッカーができない日常のおかげで、僕にとって生きがいになっている事実に改めて気付いたんです。「僕がサッカーをすることや試合観戦を熱望しているのと同じように、音楽好きは、ライブステージを待ち望んでいるのだろう」そう考えると、自分が誰かの生きがいになっているという意識が芽生え、それは悔しさも嬉しさも伴うものでした。こころが動く瞬間って、エンタメに大きく影響を受けています。こころが動かないと、人生も薄まってしまう。自粛期間やMV制作は、自分たちがいままで生み出してきたエンターテイメントの必要性についても考え直すきっかけとなったんです。
ーSNSで「#晴れたらみんなでボール蹴ろう」が拡散されていく模様を体感され、どのように感じられましたか。
GAKU-MCさん:最初は、自粛期間をポジティブに過ごすためのキーワードとして、プロジェクトメンバーが各々SNSで掲げている…くらいのものだったんです。それがじわじわと拡がっていくのは感動的でしたね。ショッキングなニュースも多いですし、ただでさえSNSはネガティブな言葉や話題が拡散されやすい場所。そこで、ポジティブな風を巻き起こせたことも嬉しかったです。
ー本プロジェクトに置いてのMVは、どのような意味があったと感じられていますか。
松永エイゾーさん:SNSで誰でも気軽に参加できるプロジェクトだったからこそ、コンセプトが重要でした。映像という情報が詰まったコンテンツを用いて、コンセプトを的確に届けることができたと思います。
ー緊急事態宣言下での映像制作で、普段の仕事と異なる点はどこでしたか。
松永エイゾーさん:手法はもちろん大きく異なりますが、なにより、「皆が同じことを考えていた」というのは、制作活動で重要で重大な違いだったのではないでしょうか。緊急事態宣言の布かれた生活では、多くの人が同じ想いを抱えていたことと思います。普通だと、こんなに多くの人が同じことを考えているなんて有り得ません。そういった状況での撮影は、「一体感」という意味では普段より勝っていたと感じられました。
僕自身、コロナウイルス感染拡大予防ということで、仕事がごそっとなくなってしまった時期があったんです。映像は贅沢品なのだろうか、本当に大事なものというわけではないのかも…そんなことさえ考えていました。けれど、よくよく周りを見れば、自宅にいる人たちを楽しませているもののひとつが映像でした。「今だからこそできることがある」そう思いました。リモート撮影という制限が多そうな企画の中でも、一体感を感じながら、できることに真摯に向き合えたと思います。
ー今後、本プロジェクトはどのような展開を予定されていますか。
GAKU-MCさん:いつかはリアルなイベントで、参加してくれた人たちに会いたい。けれど、一番重要なことは、感染症に負けず、サッカーを愛する人たちが元気に過ごすことです。いまは、皆でディフェンスを固めるとき。皆で打ち勝ち、晴れた空の下でボールを蹴りたいですね。