コメディ映画

世界一純粋で勇敢な子ブタ「ベイブ」の二度見ポイント。ただ癒されるだけの映画ではない?【映画レビュー(ネタバレあり)】

上映日:1996年
製作国:オーストラリア
上映時間:92分

監督:クリス・ヌーナン
脚本:ジョージ・ミラー、クリス・ヌーナン
出演者:ジェームズ・クロムウェル、マグダ・ズバンスキー、クリスティーン・カバナー、ミリアム・マーゴリーズ、ダニー・マン、ヒューゴ・ウィービング、ミリアム・フリン、ルシー・テイラー

あらすじ:

収穫祭の賞品として農場主アーサーにもらわれた子ブタのベイブ。牧羊犬の母犬フライはベイブに農場のルールを教えた上、自分の子供たちと同じようにベイブを可愛がってくれる。ちょっとしたきっかけからアーサーはベイブに羊の見張りをさせようと思いつくが、臆病なベイブには手も足も出ない。だが心優しいベイブは羊たちにお願いする事で牧羊犬の代わりを見事に果たしたのだ。やがて牧羊犬コンテストの日が迫り、アーサーはなんとそれにベイブを出場させようとするのだが……。

『ベイブ』予告編

『ベイブ』シングメディア編集部レビュー

ポスターのビジュアルだけを見ると“かわいい子ブタとゆかいな仲間たち”を連想させる、映画「ベイブ」。

しかし実際は現実の厳しさや残酷さについて、今一度考えるきっかけをもらえる作品でもあります。

なにより純真無垢な子ブタ・ベイブの物語は何度見ても、癒しあり、涙あり。今回はそんな「ベイブ」の二度見ポイントについてご紹介したいと思います。

「ベイブ」の二度見ポイント1:子ブタ界の天使ベイブが見せるかわいらしい仕草の数々

「ベイブ」の二度見ポイント1

今作において一番の癒しポイントといえば、何と言ってもベイブが見せるかわいらしい動きとセリフ。

見ているだけで心が洗われます。今日一日の嫌なことなどきれいさっぱり忘れ、幸せな気持ちになっちゃいます。

運命的な出会いを果たした瞬間のつぶらな瞳

ベイブと農夫のホゲットが運命的な出会いを果たしたのは、とある農村で行われていた“子豚の体重当てコンテスト”。

景品として出されていたベイブの体重を見事にホゲットが当て、彼の牧場にもらわれていくところから物語はスタートするのですが……。

ふたりが初めて出会った瞬間のベイブがとにかくかわいい!!!

先ほどまでブーブー鳴いていたベイブがホゲットに抱かれるやいなや大人しくなり、安心した様子を見せます。

そして次の瞬間、まるでホゲットに「僕をもらってください」と訴えかけるかのよう、つぶらな瞳で彼をじっと見つめるのです。天使です、子ブタ界の天使が今ここに降臨しました。

羊の柵に挟まれ静かに戸惑う様子

ホゲットの農場で暮らすなか、徐々に牧羊犬ならぬ牧羊豚の素質を見せ始めたベイブ。

ついに牧羊犬のレックス、フライとともに羊がいる牧場へと連れて行ってもらえることになります。

うれしそうにホゲットたちの後をついて行くベイブ。

しかし牧場についた瞬間、ホゲットが開いた羊の柵におもいっきり頭を挟まれます。セリフはないのですが、映像を見ているだけでベイブが「あっ、ちょっと……」と戸惑いの声をあげている様子が簡単に脳内再生されます。

一瞬のシーンであるため見逃した方もおられるかもしれませんが、二度見ではぜひこの一瞬に注目していただきたい。戸惑った姿を見せているベイブ、めちゃくちゃ萌えます。

ちょっとドジでまぬけな一面が見える瞬間

好奇心旺盛でありながらも、どこか抜けている部分があるベイブの行動には時折ハラハラさせられる場合も。

たとえばちょっとした高さの場所に登ったとき。必ずと言って良いほど足を踏み外して落ちます。「ああ……」とかよわい悲鳴をあげながら転落し、地面の上でバタバタもがいています。でもこのちょっとしたまぬけさが猛烈にかわいくて仕方ないのです。

また確実に自分より力を持っているであろう、牧羊犬のレックスや猫のダッチェスに対して「どうも、僕子ブタのベイブって言います」と普段と変わらぬノリで近寄っていく警戒心のなさ。

一瞬ヒヤヒヤさせられるものの、この純粋さがベイブの長所でもあるのだと改めて感心させられる瞬間でもあります。

穏やかな気持ちになりたいときこそ見返したい

作中の随所で目にできるベイブの愛らしさは、何度見ても言葉では表せられない癒しを与えてくれます。

心がとがって余裕を持てないときこそベイブの姿を見返し、穏やかな気持ちを取りもどしましょう。

「ベイブ」の二度見ポイント2:癒しと笑いを与えてくれる魅力的な登場人物たち

「ベイブ」の二度見ポイント2

今作では主人公のベイブ以外にも癒しと笑いを与えてくれる、魅力的な登場人物が盛りだくさん。

彼らの日常風景を見ているだけで、鑑賞側まで幸せな気持ちにさせてもらえるのです。

なぜか憎めないアヒルのフェルディナンド

右も左もわからない新入生に悪知恵を吹き込む。当初そのようなキャラで登場したのがアヒルのフェルディナンドです。

登場シーンでは自分の目的を果たすためにベイブを利用するも、ドジばかりする彼にあきれ果て見捨てる。しかし最後にはベイブと揃って失敗を犯し、自分ひとりのみ逃走という絵に描いたようなお調子者くんです。

その後も「人間に食われるくらいなら外の世界に逃げてやる」と家出したのに、気づいたらいつの間にか帰っている。何事もなかったかのように牧場の仲間たちの輪のなかに入り、いつも通りの日常を過ごしているといった、とんだお調子者くんです。

でも憎めないのですよね、フェルディナンド。やっていることは調子の良いことばかりなのですが、時々核心をついた発言で頭の良さを見せてくるので、見返せば見返すほど好きになっちゃいます。

時折存在感を出す名もなき牧場の動物たち

フェルディナンドをはじめ、牧場では牧羊犬のレックスとフライ、猫のダッチェス、羊のメーなどユニークな動物たちが一緒に暮らしています。

なかには名前こそ登場せずとも、圧倒的な存在感を見せた動物たちも作中には登場しているのです。

たとえばいつも一緒になって走り回っている、レックスとフライの子どもたち。天国です。動物好きの人間からしたらただのワンワン天国です。ちびっこワンワンたちに囲まれながら眠るベイブがどれほどうらやましかったことか……。

またたびたび登場するのになぜか名前が登場しない、馬さんと牛さん。おそらく牧場歴も長いのでしょうね。チラッと映った際の存在感やたまに口にするセリフから貫禄が出ています。

そのほかにもシーン割りのあいだに登場するネズミたちや、きっちりしているのかマイペースなのかわからない雄鶏さんなど、目に映すだけでおもわず笑顔になる動物だらけ。もはや動物たちのやりとりだけを見続けていたいくらいです。

インパクト大のホゲット夫人こと、エズメさん

今作は動物がメインの作品ではありますが、人間側の登場人物のなかにも忘れてはならない癒し的存在がいます。

そうです、ホゲット夫人ことエズメさんです。当初はかなりインパクトがある奥さまでしたよ。

ベイブに「さあ~オチビちゃん、たっぷり食べなさい」と笑顔でご飯をやりに来たかと思えば、「ブタちゃんはたくさん食べてムチムチにならないとダメ。それがおいしく(ブタを)食べるための秘訣なのだから」とめちゃくちゃ怖いセリフをさらっと吐きます。

いや農場経営をしている人間としては普通のことなのですが、ブタ側からしたらとんだサイコパスにしか見えませんよ。

その後もベイブをいかにおいしく食べるかで頭がいっぱいのエズメさん。常に笑顔なのがかわいくも恐ろしいかぎりです。

ただラストシーンで夫とベイブの姿に涙する彼女を見て、おもわず鑑賞側までもらい泣きしそうになるシーンも。

良くも悪くもまっすぐで明るいエズメさんがいたからこそ、今作は人間と動物の在り方を素直な気持ちで見届けることができたのではないでしょうか。

登場人物を知り、よりベイブの世界観を楽しもう

主人公のベイブに引けを取らぬ勢いで持ち前の個性を輝かせる登場人物たち。

初見ではベイブの愛らしい姿ばかりに注目していた方も多いかと思いますが、二度目ではベイブ以外の人や動物にも注目してください。まわりの登場人物を知ることで、よりベイブの世界観を楽しめるはずです。

「ベイブ」の二度見ポイント3:ベイブの生き方から学べる風刺的要素

「ベイブ」の二度見ポイント3

冒頭でもお伝えした通り、今作はただ癒されるだけの作品ではありません。

動物視点を通し、現実の厳しさや残酷さを教えてくれる作品でもあるのです。

食育について改めて考えさせられる場面

おそらく何も知らずに初見を鑑賞した多くの方が冒頭のシーンに驚いたことでしょう。「何か思っていたストーリーと違う」と。

今作は映画ポスターだけを見ると“種族の違う動物たちが心を通わせるアニマルドラマ”に見えます。

しかし実際は“本来食べられるはずだった子ブタが牧羊豚になるまでのストーリー”。そのためストーリーは養豚場から出荷される母親を見送り、寂しさを募らせるベイブの姿からスタートします。全然癒されない。むしろ序盤から残酷すぎて泣きそう。

その後もベイブが冤罪で殺されそうになったり、仲間のアヒルがクリスマスのごちそうにされたりと、メンタルをやられそうになる場面が多々登場します。

でも今作は人間界のリアルを動物視点で描いているからこそ、改めて食育について考えさせられ、「いただきます」という一言の重さを実感させられるのです。

人それぞれやり方は違って当たり前

牧羊豚としてのトレーニングを開始したベイブ。

最初は牧羊犬であるフライたちの真似をし、ワンワン吠えながら羊を走らせようとしますが、当然ながら一匹の子ブタがキャンキャン吠えたところで羊たちはピクリとも動きません。

そして羊たちと話し合うなかで気がつきます。自分は牧羊犬とは違う。威嚇で羊を追い込むのではなく、話し合いで相手を動かすやり方が合っているということに。

このシーンにおけるベイブの気づきは、私たち人間においても同じことが言えます。

たとえ同じゴールを目指していようと、たどり着くまでのやり方は人それぞれ。同時にひとつの正解があるからといって、必ずしもほかの道に正解がないわけとは限らないことをベイブは教えてくれたのです。

新しい何かに挑戦するときはまわりを見ない

牧羊犬コンテストに無事出場することができたベイブですが、犬の大会にブタが登場した前例などなく、審査委員会はご立腹。おまけにお客さんは大笑いと、ホゲットとベイブは誰からも応援されることなく試合に臨みます。

しかしいざ蓋を開けてみるとベイブお得意の話し合い戦法により、ひとつのミスもおかさずにゴール。審査員からは満点をもらい、お客さんはスタンディングオベーションで大喜びの結末に。

そして歓声のなかホゲットさんがベイブにかけた「よくやった」の一言に泣かされ、ストーリーは幕を閉じます。

感動で物語はハッピーエンドを迎えますが、よく見るとラストシーンも人間界のリアルさをしっかり描いているのです。

新しい何かに挑もうとすると大抵の人は相手をバカにするか、笑います。でもいざ成功するとあっさり手のひらを反し、大喜びで褒めたたえてくるのです。

ベイブの挑戦ストーリーからは人間のちょっとした汚い部分が垣間見えると同時に、まわりなど気にせず己の信じた道を進めというメッセージが伝わってきます。

ベイブから新しいことを学ぼう

アニマルドラマとしての一面を持ちつつも、風刺的要素も含む今作からは学べるモノがたくさんあります。

初見でたくさんの癒しをもらった方は、二度見ではあえてリアルな部分だけを注目して鑑賞してみましょう。必ずやひとつはベイブの生き方から学べることがあるはずです。

癒され、考えさせられ、そして泣かされる

一匹の子ブタの成長ストーリーを描いた「ベイブ」はただ癒されるだけでなく、深く考えさせられ、何度見ても泣ける物語になっています。

子どもの頃に一度見ただけで終わっている方は、ぜひ大人になった今、見返してはいかがでしょうか。幼いころに鑑賞したときとはまったく違う角度からの鑑賞を楽しめることができると思います。


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WRITTEN BY
シングメディア編集部

映像・動作制作を手掛けるTHINGMEDIA株式会社のメンバーで構成しています。制作現場で得た映像・動画の知見をお伝えしていきます。