ヒューマンドラマ映画

大切な人と見返したい『そして父になる』の二度見ポイント! リアルすぎる演技と演出が見逃せない!【映画レビュー(ネタバレあり)】

上映日:2013年
製作国:日本
上映時間:120分

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
出演者:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、二宮慶多、黄升げん、中村ゆり、高橋和也、吉田羊、ピエール瀧、小倉一郎、林剛史、中村倫也、田中哲司、井浦新、風吹ジュン、國村隼、樹木希林、夏八木勲

あらすじ:

申し分のない学歴や仕事、良き家庭を、自分の力で勝ち取ってきた良多(福山雅治)。順風満帆な人生を歩んできたが、ある日、6年間大切に育ててきた息子が病院内で他人の子どもと取り違えられていたことが判明する。血縁か、これまで過ごしてきた時間かという葛藤の中で、それぞれの家族が苦悩し……。

『そして父になる』予告編

『そして父になる』シングメディア編集部レビュー

6年間育ててきた愛するわが子は、出生時に病院で取り違えをされた赤の他人だった。

「血の繋がりか、愛した時間か」をテーマにした『そして父になる』は第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。家族の形について深く考えさせられる人間ドラマ作品でもあります。

そんな今作ですが、作中には鑑賞側が思わず世界観に引き込まれるこだわりの演出や、改めて見返したい名演技のシーンなど見どころが盛りだくさん。今回はリアルな家族の姿を描いた『そして父になる』の二度見ポイントについてご紹介します。

『そして父になる』の二度見ポイント1:ドキュメンタリー作品さながらのリアルすぎる描写と演技の数々

映画作品などで人間ドラマを描くにあたり、やはり外せないのがリアルさです。

野々宮家と斎木家という二組の家族の姿を描いた今作は、一言で語るならドキュメンタリー映画さながらのリアルさに鑑賞側が引き込まれる作品。まるで私たちの目の前で、実在する二組の家族がやりとりしているかのような錯覚を起こしそうになるほど、本当にリアルな描写が数多く登場するのです。

なかでも二度見鑑賞では、特にリアルさが際立っているシーンにご注目しながらの鑑賞を楽しんでみてはいかがでしょうか。

あくまでも家族の姿を深く映し出すことにこだわった演出

物語冒頭、幸せな生活を送っていた野々宮夫妻のもとにかかってきたのは、息子である慶多を生んだ病院からの一本の電話。慌てて病院に向かうものの、そこで聞かされたのは「子どもが取り違えられている可能性がある」という衝撃の事実でした。

そしてDNA鑑定の結果、慶多とは血の繋がりがない事実を知った野々宮夫妻。

帰宅後「だから田舎の病院で産むのは大丈夫かと聞いたんだ」と妻を責める良多(福山雅治)と、「あなたの仕事が忙しかったから、心細さから実家の近くで生みたかったの」と主張する妻のみどり(尾野真千子)。お互いにやるせない思いを抱えたまま、相手を責めるシーンが続きます。

そして通常であれば、このあとすぐ「まずは相手の家族に会おう」というやり取りを挟んだうえで、夫婦が複雑な表情で相手家族の元に向かう描写が描かれる……といった流れが定番かと思うのですが。

今作は違います。お互いを責めあう描写が描かれたかと思えば、次のシーンではなぜか暗いトンネルを抜け、高速道路を走る車窓の姿が映り、あっという間に相手家族と対面するシーンに移り変わっているのです。

このように今作では鑑賞側がストーリーの展開を想像できるであろうシーンは、あえて余計なセリフや描写を入れることなく省き、その分何気ない家族の日常生活や子どもたちが自然体で遊ぶリアルな様子をふんだんに入れ込んでいるシーンが多めに描かれています。

これが意図した演出であるかどうかはわかりませんが、結果的に自然体のシーンが多いからこそ、本当に実在する家族の姿を目にしているかのようなリアルさを感じられる作品になっているのだと思います。

フードコートで見せた斎木家父のリアルすぎる行動

また今作では主役の福山雅治さんをはじめ、日本を代表する名俳優の方々が出演している作品としても注目されました。

出演するすべての俳優さんの自然体の演技は、さすがとしか言いようがないのですが、筆者個人があまりのリアルさに感動したのが、フードコートで野々宮家と斎木家が揉めた時のリリー・フランキーさんの演技です。

お互いに取り違えられた子どもと交流を図るため、定期的に休日のショッピングモールにあるフードコートで会っていた野々宮家と斎木家。

和気あいあいと楽しむ斎木家夫婦と野々宮家の妻みどり。しかし「実の子も育てた子も、自分たちがふたりとも引き取れば良い」と勝手な計画を立てていた良多だけは違います。

タイミングを見計らい斎木家の父である雄大(リリー・フランキー)に突然「(子どもは)ふたりともこっちに譲ってくれませんか?」と提案します。

当然その場の空気は重くなり「それ本気で言っている?」と雄大も動揺を隠せませんが、「ええ、ダメですか?」と一歩も引こうとしない良多。

おそらく従来の人間ドラマ作品であれば、ここで雄大が「ふざけるんじゃない」とブチギレながら良多にビンタをかますなり、胸ぐらをつかむなりする修羅場が起こり、作中内でのひとつの見せ場ができるかと思うのです。

しかし雄大が次の瞬間どうしたかというと、良多に近づき、軽く頭をはたいただけ。このキレ方が本当にリアルで素晴らしいなと思うのです。

確かにビンタや胸ぐらをつかんだほうが作品としては迫力があるかもしれません。しかし休日家族連れで賑わうフードコートで、大声を出してのビンタとなると、少々非現実的な気もしてしまい、一気に演技をしている作り物感が出てしまう気もします。

なにより雄大は少しガサツでマイペースな部分もあるけど、子煩悩でやさしい一面のある父親という設定であるため、大声で怒鳴りながらビンタをする姿は似合わず、想像ができない。それよりも相手の頭を軽くはたき、冷静に怒りをあらわにするというキレ方のほうが役のイメージ像にも合っています。

本当に細かい部分ではあるのですが、従来の王道展開ではなく、役に合う演技を入れ込んだことにより、さらに今作のリアルさが増していると感じたシーンでもあります。

実際の子どもだからこそ出せるリアルな「なんで?」の一言

今作は子役の演技が素晴らしいことでも話題になった作品。また作中では子役の演技を中心にアドリブも多く入れられているのだとか!

特に中心人物となるふたりの息子、慶多と琉晴の演技は何度見ても引き込まれるものがあります。そのなかでも繰り返し鑑賞したいリアルなシーンが琉晴の「なんで?」責めが続く、あの名シーンです。

お互いに血の繋がった実の子を引き取ることに決めた野々宮家と斎木家。

そして実の子である琉晴が初めて野々宮家に引き取られた日の夜、良多は彼に「お風呂はひとりで入る」「ゲームは一日30分まで」など細かいルールを説明します。

しかしいきなり家庭環境ががらりと変わった琉晴。よくわからないルールに対し、「なんで?」を繰り返します。さらに良多の「これからはおじさんとおばさんをパパとママと呼ぶんだぞ」に対しては「なんで?パパちゃうやん」と一言。

最初は「なんでもだ」と言っていた良多ですが、絶対に納得しない琉晴の「なんで?」が続くことにより、最後にはついに良多も「……なんでだろうな」と考え込んでしまう結果に。

この「なんで?」が延々と繰り返されるシーンは、おそらくアドリブかなとも思うのですが、本当に困惑する子どもの様子がリアルに描かれており、大人目線で見ると胸を締め付けられてしまいます。

また最初に「なんで?」と聞き返したときの琉晴の顔をよく見ると、いつも通り笑顔ではあるものの、明らかに困惑している表情を浮かべており、大人の事情に振りまわされる子どもの不安な気持ちがここぞとばかりに読み取れるのです。

子どもだからこそ出せる自然体でリアルな演技も、二度見鑑賞では必見ポイントです。

『そして父になる』の二度見ポイント2:良多が“父になる”姿が三段階に分けて描かれる物語展開

今作で初の父親役を演じた俳優の福山雅治さん。本当に父親役が初めてなのかと疑いたくなるほど、表情や目の動き、セリフの間などすべてが素晴らしすぎて、まさにリアルな父親像を演じられていました。

ただ二度見鑑賞では「父とは何か?」という葛藤と戦う野々宮良多こと、福山雅治さんの演技に改めてご注目いただきたい!

今作では作中のなかで“名ばかりの父親を演じる姿”と“父になろうと努力する姿”、そして“本当の父になれた瞬間の姿”と三段階の変化により、良多が変わりゆく姿が丁寧に描かれているのです。

自分なりに思い込んでいた勝手な父親像

一流企業のエリート社員として働く良多は、家庭では教育熱心のパパとして描かれている瞬間が多くありました。おそらく周りからは「理想の良き父親像」として見られていたのでしょう。現に子どもの取り違え事件を起こした看護師も、裁判で「野々宮さんの家庭が幸せそうだったから、私のように不幸になってほしくてわざとやった」と語っています。

しかし実際の良多はというと、最愛のひとり息子を可愛がるというよりも「自分と同じようにエリートの道を歩んでほしいから間違ったことはさせたくない」といった思いもあり、徹底的な教育を妻と子どもに強制させるかのような一面を持っていました。

そのため息子が取り違えられているとわかったあとに「やっぱりそういうことか」と思わず本音が漏れたり、ピアノの発表会で失敗した慶多に「悔しくないのか?それなら続けていても意味がないぞ」と努力が足りないと責める様子を見せたりと、本心が見える場面もちらほら。

そのような良多の姿を見ていると、この時点では「子どもを立派な人間(エリート)に育てるのが父親の役目」といった考えがまだ心のどこかに合ったのかもしれません。

変わろうと決意するもうまくできない葛藤

その後、子どもの取り違えをきっかけに斎木家と交流を深めていく良多ですが、一向に父として変わる気配はありません。

いよいよお互いが実の子どもを引き取るとなったときも、雄大から「琉晴とは凧揚げが好きだから(引き取ったあとも)一緒にやってあげてくれ」と言われるものの、間をおいて「……ええ」と笑顔で答えています。もうこの瞬間の良多の表情を見て「あ、この人は絶対に引き取ったあとも凧揚げをやらないだろうな」と誰もが思ったことでしょう。

そんな変わる様子を見せないまま、実の子である琉晴を引き取った良多ですが、野々宮家の生活になじめず、琉晴が元の斎木家まで家出をしたことをきっかけに少しずつ変わる姿を見せ始めます。

琉晴と一日でも早く本当の家族になろうと、銃遊びに付き合ったり、家の中でキャンプごっこをしたりと、慶多と暮らしているときにはまったく見せなかった父としての顔を見せ始めたのです。

ただやはり人間はすぐに変わることなどできません。

表面上は休日に息子と遊びながら、本当の父なろうと良多なりに努力する様子を見せていますが、時折垣間見える姿からは「自分も斎木家の父みたいに子どもと向き合わねば」「息子と遊ぶ良い父親とはきっとこういうことだ」とまだ試行錯誤している感じが垣間見えています。

その夜、琉晴が流れ星に「元の家に帰りたい」と願ったことからも分かる通り、やはりまだ完全には父という存在にはなれていない。作中冒頭とは違い、終盤付近では「どうすれば自分は本当の父になれるのか」という葛藤に悩まされる良多の姿が丁寧に描かれています。

最後の最後で『そして父になる』良多

そして長い時間をかけ、「父親とは何か?」と悩み苦しんだ良多を救ったのは、慶多が家を出る前に撮りためていたカメラの写真です。

両親の言う通り良い子に育ち、斎木家に引き取られることにも一切不満をもらさなかった慶多。しかしふとカメラのデータを確認すると、両親を隠し撮りした写真がたくさん収められていて、そこから本当は離れずにこの家でずっと暮らしたかった慶多の本音がひしひしと伝わってきます。

一度良多が「このカメラを慶多にあげるよ」と言ったときに首を横に振ったのも、両親との思い出がたくさんつまったカメラがあると悲しくなるからと思ったのかもしれません。

そんな6才の息子の本音を知り、ようやく父親という存在は何かという真実に気づき、涙を流す良多。

その後、慶多に会いに行き、彼に謝り続ける良多の姿をぜひ見返してみてください。教育熱心でどこか冷めていた良多とは同一人物とは思えないほど、とても柔らかい顔をしています。

最後の最後で『そして父になる』というタイトルの伏線を見事に回収する今作。二度見鑑賞では三段階に分けて変化する良多が父親になるまでの様子をじっくりご覧ください。

『そして父になる』の二度見ポイント3:思わずほっこりしてしまう可愛い出演者のワンシーン

子どもの取り違えという一見重いテーマにも感じる今作ですが、実は癒しポイントもたくさん!なかでも二度見でぜひご覧いただきたいのが、思わず「かわいい!」と叫びたくなるような登場人物たちのほっこりするやりとりです。

近所にひとりは必ずいる可愛いお婆ちゃんこと、樹木希林さんの演技

まずご覧いただきたいのが、野々宮みどりの母親・石関里子役として登場した樹木希林さん。

決して登場回数が多かったわけではありませんが、登場するたびに鑑賞側に癒しを与えてくれました。そしてさすがとしか言いようがないリアルな演技。いる、現実にもこんなお婆ちゃんいるよね……!と心の中でつぶやいてしまいそうになるほど、自然体の演技がすごいのです。

たとえば野々宮家と斎木家が初めて顔を会わせた日の夜。実家に預けていた慶多を引き取りに行くため、里子の家に立ち寄った野々宮夫妻ですが、到着するやいなや、とらやの手土産に大喜びし、袋を振りまわしては「この重さは羊羹ね」とご満悦。

その後も「(慶多と)散々Wiiで遊んで明日筋肉痛だわ」と画面上から消えた後も延々と話し続ける陽気なお婆ちゃんとしての姿を見せます。何度も言いますが、いますよね、こういう可愛くて絶対に憎めないお婆ちゃん。

さらに別日に慶多を預かった日は、実際に孫とふたりでWiiのゲームで遊ぶ様子が描かれているのですが、孫よりゲーム熱中するお婆ちゃん。最終的には「慶多こっち(画面)の端から外れている!ダメなんだよ、この真ん中のところに入れないと」と孫にプレイ方法を指示するほどの熱中ぶりを見せています。

おそらくこちらのシーンもアドリブなのでしょうが、この近所にいる可愛くて明るいお婆ちゃんといった姿が自然で作品になじみつつ、かつ何度見ても癒しをもらえるシーンでもあるのです。

すべてがアドリブかと思うほど可愛すぎる斎木家の末っ子たち

今回は野々宮家と斎木家、そして息子の慶多と琉晴の六人がメインで描かれているシーンが多い作品ではありますが、癒しを求めて二度見鑑賞をする際は、ぜひ斎木家の妹と弟である美結ちゃんと大和くんにもご注目ください。

ただただ癒しです。大人たちが真剣な話をしているのなどお構いなく、自由に遊んで全力で最高の笑顔を見せてくれるちびっ子ふたりが本当に可愛いのです。

特に末っ子の大和くんは、ひとつひとつの言動がとにかく天使すぎます……!

初めて野々宮家と斎木家がフードコートで会った日も、慶多と琉晴がキッズプレイゾーンで遊ぼうとすると「大和も一緒に遊びに行く!」と大はしゃぎ。その日以降も大人たちが真剣な話し合いをする場にたびたび現れ、構ってほしそうにちょっかいを出しにくる姿がもう癒しでしかないのです。

筆者個人的には初めて斎木家に慶多が泊まった日の夜のシーンをぜひ見返していただきたい!夕飯の餃子をみんなで取り分ける様子に慶多が戸惑っているシーンがありますが、奥にいる大和くんをよく観察すると、最初は頑張ってフォークで餃子を取ろうとしているのですが、すぐに諦め小さな声で「(やっぱり)手で食べよう!」と熱々の餃子を手掴みしているシーンがあります。

完全にアドリブだとは思うのですが、その自然体すぎる子どもの一瞬の姿がとにかく可愛すぎて癒されるので、ぜひ見逃さずにチェックしてみてください!

大切な人と一緒に見返したい心温まる作品

子どもの取り違えをきっかけに家族の形を模索する『そして父になる』は、テーマ自体は少し重いものの、後味の悪さなどは一切なく、最後には温かい気持ちにさせられる作品です。なかでも自然体でリアルな演技や高い没入感を味わえる演出は何度見ても感動間違いなし!

ぜひ大切な人と一緒に二度見鑑賞し、家族の形について考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

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WRITTEN BY
シングメディア編集部

映像・動作制作を手掛けるTHINGMEDIA株式会社のメンバーで構成しています。制作現場で得た映像・動画の知見をお伝えしていきます。