あらすじ:
東京都民から冷遇され続けてきた埼玉県民は、身を潜めるように暮らしていた。東京都知事の息子で東京屈指の名門校・白鵬堂学院の生徒会長を務める壇ノ浦百美(二階堂ふみ)は、容姿端麗なアメリカ帰りの転校生・麻実麗(GACKT)と出会い、惹(ひ)かれ合う。しかし、麗が埼玉出身であることが発覚し……。
『翔んで埼玉』予告編
『翔んで埼玉』シングメディア編集部レビュー
「君って本当にダサいし、何の特徴もないよね」
この手の侮辱ともとれる発言を受け、良い気分になる人はおそらくいないことでしょう。むしろ、喧嘩を売られているとしか思えないはず。しかし、そんなディスりに愛が込められている例もあるのです。
それが今回ご紹介する映画『翔んで埼玉』です。『パタリロ』シリーズでおなじみの魔夜峰央氏原作、『テルマエ・ロマエ』等を手掛けた武内英樹監督により実写化された今作は、埼玉ディス作品であるにもかかわらず、都道府県興行収入で埼玉県が全国1位になるなど、地元から愛される作品。
そんな『翔んで埼玉』を見返すうえでおすすめしたい二度見ポイントについて、ご紹介します。
『翔んで埼玉』の二度見ポイント1:じわじわと笑いがこみあげてくる、ワードセンスの高さ
今作は大笑いできるというよりは、後からじわじわと笑いがこみあげてくるタイプの作品。初見時、無意識のうちに口元がニヤけっぱなしだったという方も多いのではないでしょうか。
そんなシュールな笑いを生み出す要因のひとつが、ワードセンスの高さです。
不思議と愛を感じる埼玉ディスセリフ
今作はワードセンスの高いセリフがとにかく多い! 特に代表的なところでいえば、「埼玉県人には、そこらへんの草でも食わせておけ!」でしょう。元埼玉県人が集まるZ組の生徒・マサコが腹痛を起こしたとき、百美が吐いたセリフです。後に教室に戻ったマサコが本当に草を食べようとしている衝撃的なシーンも相まって、鑑賞側の印象に強く残ったセリフです。
しかし、他にもワードセンスの塊である埼玉ディスセリフはあったのです。
たとえば、A組女子生徒たちが麗にZ組の説明をしているときの「埼玉だなんて言っているだけで口が埼玉になるわ」や、Z組の教室に入る麗にマサコがかけた「こんなところにいては埼玉がうつってしまいます」など。埼玉って一体何者……? と思わせる絶妙な埼玉ディスセリフ。ディスっているにも関わらず、不思議と愛を感じてしまうあたりに今作のワードセンスの高さを感じてしまいます。
「アメリカの匂い」というパワーワード
主人公である麻実麗がアメリカから転入してきたシーンも、よく見るとワードセンスの高さをうかがえる名場面となっています。
彼が「麻実麗です」自己紹介をすると、教室中の女子生徒が「かっこいい~」と黄色い声を張り上げますが、よく耳を澄ませると、とある女子生徒が「ほんのりアメリカの匂いもするわ」と一言。「アメリカっぽい」「外国人みたい」ならまだわかりますが、アメリカの匂いとは……?
おそらく、普通の生活を送っているなかでは、絶対に聞くことがないであろう「アメリカの匂い」というパワーワード。このように今作は、何気ないセリフのなかにワードセンスの高さをうかがえるシーンが多々あったのです。
小道具に記された文字にも注目
今作ではセリフ以外にも、ワードセンスの高さを感じられる部分があります。それが背景の一部として描かれている文字です。
たとえば、冒頭で埼玉県人が東京に出入りするには、通行手形が必要であると紹介するシーン。こちらのシーン内では、荒れ地と化した埼玉県の様子が映りますが、看板や標識に「あったか~い飯あり〼」「熊谷 14万8千歩」と記されています。
「あります」を「あり〼」と書いたり、目的地までの距離をキロメートルではなく歩数で表したりすることで、埼玉だけ時代が追いついていないかのような印象に。さり気なく埼玉と東京の格差を表現しているのです。
また、Z組で麗と生徒たちが会話をするシーンの背景では、教室の壁に書道作品が飾られています。「自由」「平等」とまさに彼らの憧れを表した作品がずらっと並んでいるのですが、そのなかになぜか「刺身」の一文字が。
「なぜ刺身?」と不思議に感じてしまいそうですが、後々、今作の世界では埼玉県人が海に強い憧れを抱いていることが分かります。海がないからこそ、新鮮な刺身を食べることは、「自由」「平等」と同じくらい彼らにとって憧れがあるのかもしれない……! という妄想がかきたてられそうです。
何気なく背景に映る、小道具に記された文字ですが、作品の世界観を表現するうえで、実は重要な役割を果たしていたのかもしれません。
二度見ではワードセンスの高さを実感したい
ちょっとした笑いが積み重なり、物語が進むにつれ、じわじわ笑いがこみあげてくる今作。もしかすると、独特のセリフや小道具の演出に笑わされたのかもしれません。二度見鑑賞では、登場人物のセリフや背景の小道具をじっくり見て聞いて、ワードセンスの高さを実感してみてはいかがでしょうか。
『翔んで埼玉』の二度見ポイント2:シュールな笑いを生み出す、小ネタや演出
ワードセンスの高さもさることながら、今作はちょっとした小ネタや演出にも、こだわりが感じられます。特に初見では見逃しがちな細かい部分に注目して見ると、さらにシュールな笑いを堪能できます。
SATが手にする謎の武器
今作には通行手形なしで東京に紛れ込んだ埼玉県人を見つけ、捕らえる急襲部隊として、SATと呼ばれる組織が登場します。彼らは装着したゴーグルを通すことで、埼玉県人を瞬時に識別。即、捕獲することができるのです。
しかし、いかんせん武器が謎なのです。
冒頭、ナイトクラブで埼玉県人の男性を捕らえるときの武器は、どこからどう見ても突っ張り棒。手に持つ武器からスモークを噴射し、颯爽と彼を捕獲しますが、どう見ても先端に噴射口を取り付けた突っ張り棒にしか見えないのです。
また、遊園地で麗の家政婦であるおかよ親子を取り押さえるときに使用している武器にいたっては、完全にドライヤー。光線銃のようにカッコよく使っていますが、誰がどう見ても明らかにドライヤーなのです。
二度見では、そんなSATの武器にぜひご注目ください! ちなみに余談ですが、今作におけるSATとは、警察ドラマなのでよく見るあのSATではなく、“サイタマ・アタック・チーム(埼玉急襲部隊)”の略という小ネタも置いておきます。
おかよ親子連行シーンはツッコミどころ満載
埼玉県人であることがわかり、SATに捕らえられたおかよ親子。ボロボロになりながらも、県人としての誇りを忘れず、埼玉ポーズを胸に連行されます。そして、その瞬間の息子の姿勢を改めてご覧ください。背筋良くつま先まで伸ばした状態で捕らえられていきます。姿勢が良すぎるあまり、運ぶSAT側も少々苦労している印象を受けます。
ほんの一瞬ではあるものの、息子の姿勢の良さには、強烈なインパクトを与えられます。
また、このおかよ親子が捕らえられるシーンでは、おかよを運ぶSATの顎がなぜかしゃくれていたり、おかよに銃を向けるSATの武器がやっぱりどう見てもライヤーにしか見えなかったりと、ツッコミどころが満載となっています。
他作品を彷彿とさせるオマージュやパロディ
物語の序盤、全校生徒の前で転入早々の麗に恥をかかせようと、百美が提案した“東京テイスティング”。東京のとある地域の空気を詰め込んだボトルを嗅ぎ、それがどの街の空気なのかを当てるというゲームです。そしていざ、麗役のGACKTさんがボトルを手に取る光景を見て、おそらく多くの方の脳裏をよぎったことでしょう。
「お正月恒例のあの番組にしか見えない……」と。
実はこの“東京テイスティング”以外のシーンでも、「あの作品のオマージュ?パロディ?」と思えるシーンが、今作には盛り込まれています。洋画好きなら「もしかして……!」とすぐに気づくであろう作品も多々登場します(公式では触れていないため、あえて作品名は出しませんが……)。二度見鑑賞では、そんな既視感を探しながらの鑑賞も楽しいかもしれません。
初見で見逃したさり気ない小ネタを見つけよう
今作は動きの多いシーンが多々あるため、初見時に細かい部分まで目を通すのは至難の業。しかし、じっくり鑑賞してみると、おもしろい演出をほどこしている場面も多いのです。二度見鑑賞では、初見で見逃したさり気ない小ネタを探してみてはいかがでしょうか。
『翔んで埼玉』の二度見ポイント3:二度見でしか味わえない“流山橋の戦い”をさらに楽しむポイント
冒頭から終盤にかけ、予想の斜め上をいく展開や意外過ぎる登場人物の連続を楽しめる今作。そんな見どころ満載の作品ですが、なかでも強く印象に残るシーンといえば、やはり終盤の“流山橋の戦い”ではないでしょうか。
実はこの流山橋の戦い、二度見以降でしか味わえない見どころポイントが隠されたシーンでもあるのです。
著名人対決が印象的だった流山橋の戦い
麗率いる埼玉解放戦線と、阿久津率いる千葉解放戦線が退治する、流山橋の戦い。一体、どのような戦いになるのかと固唾を飲んで見守ってみるも、蓋を開ければ、まさかの著名人の出身地対決が開始されます。
XJAPAN・YOSHIKI、桐谷美玲、真木よう子を出す千葉に対し、THE ALFEE・高見沢俊彦、反町隆史、竹野内豊で応戦する埼玉! 負けじと、次の著名人を出すものの、小倉優子では弱い!小島よしおではもっと弱い!と、最終兵器である市原悦子を召喚する千葉!
……と、予想外の対決にくわえ、ツッコミどころ満載である戦いが行われました。おそらく、純粋に二度見以降も楽しめるシーンとなることでしょう。
しかし、この流山橋の戦いをさらに楽しむには、埼玉と千葉、それぞれが掲げる旗に注目していただきたいのです。
千葉解放戦線の旗は海一本推し
流山橋の戦いでは、各軍が思い思いの旗を掲げ戦いますが、いかんせんカメラの動きも速く、場面の切り替わりも激しいため、動く旗に描かれた言葉を読むのは困難でした。初見時は特に気にしていなかった方も多いのではないでしょうか。
しかし、それぞれの軍の旗に記された言葉をじっくり読んでみると、各軍の個性がわかり、さらに流山橋の戦いシーンを楽しめるのです。
たとえば、千葉解放戦線の場合。ざっと見ただけでも、
「夢を波に乗せて」
「海がある誇りを持てばそれでいい」
「波の後押しを背に勝利を掴め」
「海を愛し、海に愛された千葉~eternal love~」
と、恐ろしいほどの海推し旗が掲げられています。運動会のスローガン感がすごいです。「全国の海は千葉の海から始まった」という旗にいたっては、賞をあげたいくらいのワードセンスの高さに脱帽してしまいます。
そして極めつけが、大将である阿久津が飛ばした檄。
「みなの者、何も臆することはない。我々には海がある!」
千葉愛というよりも、海愛がすごい! とにもかくにも千葉解放戦線の旗は右から左まで、ほぼ海推しなのです。
郷土愛に満ちた埼玉解放戦線の旗
全力で海推しの千葉解放戦線に対し、埼玉解放戦線の旗はというと、まさかの「穴掘り」。海への憧れが強く、海につながる道を求め、地下の穴掘り生活を続けていた埼玉県人ならではの旗です。ただ、海推しで煽っている千葉解放戦線の狙い通りになり、かなりのダメージをくらいそうではありますが。
また、その他の旗を見てみると、
「長瀞ラインくだり」
「春日部焼きそば」
「草加せんべい」
と、観光名所と埼玉名物のオンパレード。何となく弱い気もしますが、海一本推しの千葉よりは推すものが多くて強いのかも……? と、もはや何が正解で何が間違いなのかがわからなくなってきます。
そして、極めつけが
「山田うどん」
埼玉解放戦線は、圧倒的に山田うどんの旗が多すぎる! 後方待機のデコトラにも山田うどんの旗が掲げられ、川沿いでは深谷市のイメージキャラクターである、ゆるキャラ・ふっかちゃんの旗よりも前に山田うどんの旗を掲げています。海一本の千葉と違い、埼玉解放戦線の旗はじっくり見ていると、お腹がすいてきそうになります。
二度見では著名人対決よりも、旗対決にご注目を
一瞬しか映らないにもかかわらず、丁寧に作りこまれ、ここでもワードセンスの高さを表した、流山橋の戦いの旗。今作ならではのコメディ感にくわえ、各軍の郷土愛がぎっしり込められた旗は、二度見を楽しむうえで、間違いなく欠かせないポイントであると言えます。
二度見鑑賞でさらに埼玉愛を深めよう!
埼玉県民である方も、そうでない方も楽しめる映画『翔んで埼玉』は、難しいことなど考えず、ただ笑って映画鑑賞したいときにおすすめの作品。
二度見鑑賞をするのであれば、ぜひ、初見では見る余裕のなかった細かいワードや小ネタ、演出に注目してみてください。見逃していた部分に注目することで、さらに作品の世界観に入り込め、謎の埼玉愛も深まるはずです。
『翔んで埼玉』を配信中の動画サービス
動画サービスで『翔んで埼玉』を観よう!