「自分自身に希望を持つこと」は、「旗を立てることだ」。
そんな信念の基に生まれたプロジェクト「ぼくたちはどこに旗を立てよう」。
「人」というものへの興味が尽きないシングメディア佐藤が自分自身の旗を立て続ける人たちと語り合っていきます。
今回は「バベルレーベル篇」最終回。
旗立人は日本大学芸術学部在学中に自主映画を作っていた同世代の仲間を中心に結成された映像ディレクター集団/映像制作会社、株式会社BABEL LABEL(バベルレーベル)の代表の山田久人さん、さらに、設立者である監督の藤井道人さんです。
先日発表された第43回日本アカデミー賞では、優秀作品賞・優秀監督賞をはじめ、6部門受賞した映画『新聞記者』。
昨今の政治的題材に取り組みながら、大きな情勢に翻弄され苦悩する個人に光を当てた人間ドラマを作り上げ、劇場では満席が相次ぎ、終演で拍手が起こるという所謂「新聞記者現象」を引き起こしました。
vol.6では、10周年を迎える上で、これから生み出していくもの、次の世代へ向けて、さらに「旗を立てること」について具体的にお聞きしました。
今回のセクションはこんな感じ。
映画やCM、MVなど様々なジャンルの映像を手がける株式会社BABEL LABEL(バベルレーベル)代表、プロデューサー。
株式会社AOI Pro.退社後、そこで培った経験を生かし、代表として様々なディレクターが所属するBABEL LABELの基盤を担う。
大学時代の映画制作がきっかけで映像の道へ進む。
株式会社BABEL LABEL所属の映画監督・脚本家。
2010年にBABEL LABELを設立。
2014年伊坂幸太郎原作映画『オー!ファーザー』でデビュー。
2019年公開の映画『新聞記者』では第43回日本アカデミー賞6部門受賞、第74回毎日映画コンクール 日本映画優秀賞、第32回日刊スポーツ映画大賞作品賞、2020エランドール賞特別賞を受賞。
驚きと感動で感謝を伝える
佐藤一樹(以下佐藤)ーー第3部ではこれからのことについてお聞きしていきたいと思います。改めて、バベルがざっくり10周年ということについて今、どう感じていらっしゃいますか?
藤井道人(以下藤井) 10周年経ちましたね。なんだかんだ。
佐藤ーー長かったですか?
藤井 あまりちゃんと覚えていないんですよね(笑)。取材してもらっているのでそこはちゃんと答えようと思いますが(笑)。
いい時も悪い時もありましたが、続けててよかったの一言です。続けていないと見えない景色があるので。
続けていれば次はこれをやるという部分がちゃんと答えられるんですよね。入社3ヶ月目だと、今から吸収しますしか言えないですが、続けていれば言える、みたいなことだと思います。だからいろんなことを考え続けています。
佐藤ーーやめるときはあるんでしょうか。
藤井 必要とされなくなったらそうですね。
求められなくなったら、続けたくても時代がそう言うのならしょうがないと思いますね。その分、求められているうちはちゃんとやります。
佐藤ーー山田さんは、10周年を迎え、これまでのBABEL LABELを振り返った上で、今後どうしていく、みたいな思いはあるのでしょうか。
山田久人(以下山田) 6年前くらい、僕が代表になる時に2020年への目標として、「それなりの知名度へもっていく」っていうことを言っていました。
今それが達成できたのかっていうとまだまだだなと思いますが、それでも、自分で調べて「BABEL LABELに入りたいんです」って言ってきてくれる子とかもいるし、ある界隈では映像をすごい楽しみにしてくれている人たちもいるし、本当にこの10年の中でいろんな人にお世話になってやってこれたなと感じています。そういう人たちにバベルがずっと続けてきたことでお返しできたらいいなと思いますね。
ロゴにもsince2010と書いてあるので、はっきりと2020年が10周年ってことで、一つのいい区切りとして、「BABEL LABELはこれだけやってきたんだぞ」ってことを何かで見せられたらいいなと思いますね。
藤井がずっと言ってるんですが、モノを作るにしても、誰かがやってないこととか、新しいことをやりたいって常に言っていたりもするので、そういうことをやりたいですね。
「何かを公開する時には驚いてくれることをいろいろ企画としてやっていきたい」っていうのは、僕のテーマでもあるので、10周年で何かをやるって言ったら多分みんなで一緒にやることになるので、周りが驚く新しいことをみんなでやれたらいいなと思いますね。
佐藤ーーその10周年の催し物に向けて企画会議を行なっていると聞きましたが……。
藤井 一度だけ会議を行いました。
昔よりも何かをやるっていうのが周りに言いやすくなっていて、「10周年なので何かやりたいんですけど」って言うと「ぜひぜひ」って言ってくれる人が増えてきたという実感はありますね。
あとは社員旅行なりで自分たちがちゃんと話して決めていくという感じです。
佐藤ーー社員旅行はその話し合いも兼ねているんですね。
山田 毎年、往年の初期メンバーであるディレクターたちが基本いるので、そこでちゃんと熱い話をすると思いますよ(笑)。
新世代への期待とオリジナルメンバーの野心
佐藤ーーでは、その初期メンバーについて聞いていこうかなとおもいます。
藤井 これだけ人生を拘束しちゃっている分、「10年目だぞ、何する?」っていう部分でちゃんとそろそろもう一度向き合おうと思っています。
彼ら自身に絶対にこれっていうのがあるはずなんですが、それがある種、今は下もいて自分の立ち位置みたいなものにがんじがらめになっている人間もこれから出てくると思うんですよね。なのでそこはフラットに話したいとな思っていて、別にどうなれとかはないです。
みんな多分フラストレーションが絶対にあるし、なりたかった自分に10年目でちゃんとなれているかっていうのを引き続きしゃべろうと思います。2020年はここをどうにかするっていうのが僕の仕事かなと思いますね。
佐藤ーーそれは藤井さんとしては、もっといけるだろうという気持ちがあるということでしょうか?
藤井 それはどちらかというと、別に今のままでもいいんですよ。でも今のままでもよくないって初期メンバー自体が思っていると思いますね。そこの感情をちゃんとピックアップしてあげるというか。
うちは上も下もないんですよ。僕らより年上のディレクターもいるし、何をやりたいかとか、今社会にどう見られているかとか、一回話さないと整理できないことってあるので。だからってそれで仕事をあげるとかではないですけどね。そこはちゃんととってこいよみたいな(笑)。もう兄弟なんでね。
佐藤ーー社員や部下といった関係よりは互いに意識し合っているライバルがたくさんいる環境に近いように思いました。
藤井 その分アナログだと思いますね。
今って人間関係も全部効率化されていると思うんですけど、だからこそ10周年迎えるにあたって、あえてもっとアナログに落とし込んでいきたいですね。どうせ時代がデジタルになるからこそ、デジタルにデジタルな人間関係足してどうなるんだって思うので。もっとそこはアナログにいかないとすぐ時代に置いていかれると思っています。
佐藤ーー藤井さんはプロデューサーとしての顔も持ち合わせているように感じました。とりまとめるというか。
藤井 プロデューサーもやりますよ。できることとできないことがありますが、お金とかは本当に興味がないのでその辺は山ちゃん(山田)にお願いしています。
プロデューサーにとっては嫌なディレクターだなと思いますね(笑)。でも監督が何も知らないのよりはいいのかなと思います。さっき(vol.4参照)山ちゃんが言ったと思いますが、映像は1人で作るものではないので。
佐藤ーー山田さんは初期メンバーについてはどう考えていますか?
山田 頑張って欲しいですが、でももう、さっき藤井が言った通り、各々の集団なので、僕とバベルができることはできる限りやるし、みんなで集まれる時は集まればいいというくらいですね。アベンジャーズみたいにみんなそれぞれがちゃんと独立できるといいなと思います。
佐藤ーー若い世代に対してはどうでしょうか?
山田 若手はすごいですよ、本当に。
藤井 僕たちより適応能力低いんじゃないかっていう問題児がたくさんいます(笑)。
山田 かっこいいなぁと思いますね(笑)。
佐藤ーーそれはそういうマインドの人たちをウェルカムしているのでしょうか?
山田 いや、特にそういうわけではないです。
まず、メールが来て、別にメールはちゃんとしていなくてもいいのですが、意思が伝わるようなメールかどうか、それを見て決めます。そして実際に来てもらうのですが、その中でも、変わってるなっていう子もいたりします。それでも面白いから入れてみるかっていうことが多いかもしれませんね。
佐藤ーー結構頻繁に応募が来るのでしょうか?
藤井 応募はすごく来ますね。その中で山ちゃんが会社にどうコミットしているんだろうっていう部分で人選をしています。
多分山ちゃんなりの判断基準があって、それで来ている子たちなので、今も頑張れているのかなと思いますね。
あと僕が勝手にこの人入れたいんだけどっていうのを言い出したりします。ヘッドハンティングは僕の担当ですね。
数はあまり必要だとは思っていなくて、要は会社の中でどこが窪んでいて、そこをどうやったら補填できるかみたいなところだと思っています。
山田 今は台湾人の子もいるし、4月から中国人の子も入るし、その辺のアジアを含め、世界全体の仕事をしたいというのも視野にありますね。
今後どうなっていくかでいうと、わりと日本だけじゃなくて海外の仕事をやっていきたいっていうのがあって、今年は特に増えたなと思いますが、もっともっと、半分が海外の仕事をしているっていうことが言えるくらいの会社にはしたいなと思っています。
佐藤ーー確かにバベルは台湾や中国関係の仕事をずっとやっているイメージがあります。海外にこだわる理由などはあるのでしょうか?
藤井 結局はみんな日本でビジネスをやるじゃないですか。
日本でできることは当たり前だし、海外の方となので、うまくいくこといかないこと、いろいろありますが、要は、日本という国をどう外から見るのかが重要になってくると思っていて。
外の人間たちに日本のコンテンツをどうシェアするかっていうことに対して何かアクションを起こしているっていう人はあまりはいないんですよね。
単純に自分たちの価値観を拡張するためにはまずはアジアっていうところに自分たちの拠点を中長期的におくことを考えるっていうのはものすごく自然な発想だと思いますね。
佐藤ーー藤井さんは若手を育てようという想いもあるのでしょうか。
藤井 バベルの若手って映画監督志望って人が結構少ないんですよね。
僕がバベルの若手たちをすごく評価している部分は、バベルという会社の30人がいる中で、誰かにこうしなさいと言われたわけではなく、「自分たち」っていうユニットを精神的に作っているということですね。
そこにまた一個の時代が生まれているなと思いますね。彼らは彼らで考えているんですよね、この会社の中で。
そのエースだけのユニットがあることはすごくいいと思っていて、もっとバベルより大きくなっていってもいいと思うし、僕みたいなおじさんがずかずか入っていって、「こうしなさい」って言うのは、あまりそこに対しては考えていないですね。
山田 若手でいうと、そうですね。会社としても若手のユニットは作ろうと考えていますね。
自分を信じ続けること
佐藤ーーお二人にとって「自分を超えた瞬間」っていうのは?
藤井 毎回ですね。
僕は今の自分にできる仕事はやらないので、やっぱり毎回ハードルが高いです。
ハードルが高い、自分では超えられないかもという仕事を優先的に受けていて、最近やった映画とかも、『新聞記者』もそうですが、自分よりもっと上の監督が撮るべきだなと思うものを撮っています。毎回、そういう仕事を選んでいますね。
超えられたか超えられてないかは観客が決めると思っています。僕の中では超えようと頑張ってはいますが、超えられてないなと言われたらそれはやっぱりくやしいですが、そうなんだと思います。
*松坂くんも似たような考えがあって、彼のすごく尊敬できる部分は、同じような作品はやらないというか、振り幅というか、自分の中で「俺はこういう人間です」っていうトーンを決めないんですよね。
『新聞記者』の次に公開される僕の作品はファンタジー映画なんです。ずっと違うものを撮るんですよね。そしたら壁しかないじゃないですか、毎回。それはやっぱりトライしたいところではありますね。
佐藤ーー確かに、藤井さんの映画は全てトーンが違うように思います。『新聞記者』をはじめ、『青の帰り道』、『デイアンドナイト』も全然違いますよね。
藤井 そうですね。例えば、誰かが「なんて統一性のない監督だ」と評価しようと、それはそれでいいと思っています。時代って統一性なんかないと思うので。
佐藤ーー映画は公開までが長く、2年越し、3年越しだったりすることがあると思うのですが、時代を考えたときに、その3年前の想いを3年越しに確認したりするというのは怖くはないのでしょうか。
藤井 ものづくりの中でも映画はやっぱり特殊で、2年後に公開されることをわかって自分たちは作っているんですよ。だから、今僕がこう思っているからこう撮りたいではなくて、2年後にこう届けるために作っているので、トークショーとかでそんなに、「やばい、2年前だからあまり覚えてない」とかはないです。当時の現場の話とかになってくると覚えてないこととかはありますが、それは映画の特性だと思っています。
広告とかミュージックビデオの瞬発力はあれはあれですごく楽しいですけどね。
佐藤ーー山田さんにとって「自分を超えた瞬間」というのは?
山田 音楽分野で好きなアーティストをプロデュースできるところまでいったっていうことは大きかったですね。最初はただのファンとして、HIP HOPのミュージックビデオを作っていて、得どころか、ほとんど赤字でした。そんなところから、今はアルバムの曲を全部渡されて、どのPVをどのタイミングで作るかという相談を受けて、ドキュメンタリーをバベルのYouTubeで公開して、彼がどういう風な見え方をするべきかとか、そういう話を一緒になってして、アーティストのプロデュースもできるようになったのが「超えた瞬間」かなと思えましたね。
作品を作ってるというところからすると、もうプロデューサーの域は超えているような気がしますが、そこまでやって本当のプロデューサーかなと思えるようになりましたね。だから、最近は今までやっててよかったなという気持ちが大きいです。
佐藤ーーそれを聞いて藤井さん的にはどう感じていますか。
藤井 楽しそうで何よりだなと思います(笑)。
やっぱり山ちゃんには楽しいものを作っていてほしいので。モチベーションってやっぱりあると思っていて、経営ばかりやっていたら疲れるだろうし、社員がたくさんいると大変だなと思うので、楽しい仕事は常にやっていてもらいたいなと思いますね。
佐藤ーー自分から「ことを起こす」こと、まぁ、#ぼく旗的に言うと、旗を立てることについて、どう考えますか。特に広告、映像制作系はわりと受動的なところからのファイティングポーズになるので、言い訳できる環境であることが多いと思うのですが、そんな中で、自分でことを起こすとなると、言い訳ができない環境に身を置くことになると思いますが、そこで旗を立てている身としてはどのような想いがあるのでしょうか?
藤井 難しいですよね。旗を立てることが人生の人もいますし、人の旗に風を与える存在の人もいると思います。旗だって、動かなかったらそれは微妙じゃないですか。でもそこに応援の風を起こしてくれる人だっているし、旗が倒れないように支える人だっているんですよね。
みんなに言えることは、「旗を立てることが全てじゃない」ということですね。旗を見守るとか、支えるっていう役割があると思うので、自分がその旗をどう見るかということを大事にすればいいと思っています。
#ぼく旗編集後記
これまでの取材では、「旗を立てること」ばかりにフォーカスしてきたが、それだけが全てではなく、旗を見守る・支えるといった様な、「旗」に対しての様々な役割があることに気付かされた。
「自分は旗を立てていないから何者でもないのだ」、とか、「どうしたら旗が立つのだろう」ということばかり考え、悩んでいたりする人はきっとたくさんいるのだと思う。
もしかしたらその時は、藤井さんが言う様に、自分が社会の中で、その旗に対してどういるのか、もう一度見つめ直すことが大切かもしれない。
自分から見た旗、ではなく、社会や世界という大きく広い枠の中で、客観的にその旗を見たときに、その旗にとって自分の役割とは何なのか考えるべきなのだろうと思う。
そうすることで、さらに、自分の近くにはこんな旗が立っていたのかと新しい発見があったりするのかもしれない。
株式会社ダダビのPR。クリームソーダとロックがすき。パンクに生きたい。現在シングメディアで修行中。