サメ映画

王道のサメ映画とは一味違う映画「ロスト・バケーション」の二度見ポイント。なぜか強い恐怖や絶望を感じる理由とは?【映画レビュー(ネタバレあり)】

上映日:2016年
製作国:アメリカ
上映時間:86分

監督:ジャウム・コレット=セラ
脚本:アンソニー・ジャスウィンスキー
出演者:ブレイク・ライブリー

あらすじ:

休暇で秘境のビーチに来た医者のナンシー(ブレイク・ライヴリー)は、サーフィンを楽しんでいた最中に脚を負傷する。何とか近くの岩場にたどり着いたものの、ナンシーの存在に気が付いたサメが周囲を旋回していた。海岸までおよそ200メートルだが、その岩場が満潮で海面下に沈むまであと100分。危機的な状況に追い込まれたナンシーは……。

『ロスト・バケーション』予告編

『ロスト・バケーション』シングメディア編集部レビュー

主要となる登場人物は主人公とサメのみ。
映し出されるのはビーチから200m圏内の海。
おまけに上映時間は86分。

……と、この情報だけ聞くと、誰もがよくありがちなB級サメ映画をご想像するのではないでしょうか。

ところがどっこい! 「ロスト・バケーション」は出演者も撮影場所も1本しばりで、上映時間もめちゃくちゃ短いにもかかわらず、「近年、ここまでハラハラさせられたサメ映画があっただろうか!?」と鑑賞する側の予想を見事にひっくり返す、まさに今までにないパターンのサメ映画なのです。

そんな予想以上の展開が待ち受けている作品です。二度見、三度見してもおもしろくないわけがありません。

というわけで、今回は従来のサメ映画とは一味違う「ロスト・バケーション」の二度見ポイントについてご紹介したいと思います。

映画「ロスト・バケーション」の二度見ポイント三行まとめ

「ロスト・バケーション」の二度見ポイント1:86分間が恐怖の連続! その理由とは?

「ロスト・バケーション」の二度見ポイント1

まずは何と言っても、今作を鑑賞した多くの方が初見時に思ったであろうこと。それは「軽い気持ちで見てみたら、予想以上に怖かった」という感想ではないでしょうか。

自称・サメ映画ファンである筆者ですら思いましたよね。「何で私は映画館にひとりで来てしまったのだろうか」と。もうそれくらい軽い気持ちで見たら後悔する作品です。マジでサメ怖ぇ~ってなって、しばらくは海に行けなくなりますよね。

ただ、なぜ今作はシンプルな作りであるにもかかわらず、強い恐怖を感じるのか? その答えは従来のサメ映画とは真逆の方向性であるストーリー展開と、巧みな撮影技術の中に隠されていました。

サメ映画の王道の展開と真逆をいく今作

そもそも従来のサメ映画と言えば、一種のデスゲーム。

大勢の登場人物が人食いザメと戦う中、次々にサメに襲われた人々が離脱していき、最後に生き残るのは誰だ? という流れが王道の展開であるとも言えるでしょう。

しかし、今作で主要となる登場人物は主人公である医学生のナンシー(ブレイク・ライブリー)と1匹のサメ。その他にも地元のサーファーやナンシーの家族なども時々登場するのですが、基本的にはナンシーとサメしか出てきません。

このキャスティングだけ見ると、大きな展開やドキドキハラハラさせられるシーンはさほどなさそうに感じますが……。

実はその真逆! 登場人物が少なければ少ないほど、サメ映画は強い恐怖を感じる作品だったのです。

一人称視点が恐怖をもたらす理由だった

従来のサメ映画であれば、心強い仲間がいて、登場人物たちが会話するシーンも多々見られます。

おまけにどれだけ凶暴な人食いザメであろうが、数でいえば、圧倒的に人間のほうが有利。「どうやってあのサメを倒す?」と仲間同士で作戦を出し合うことだってできちゃいます。

その反面、たったひとりでサメと戦う今作の主人公ナンシー。

当たり前ですが終始ひとりきりであるため、会話どころかセリフもほとんどないなんて場面も。そして映し出されるのは、絶望しか感じないナンシーの表情と、水中の中からナンシーを狙うサメ視点の描写。

するとどうでしょう。途中から自分がナンシーと同じ状況に陥っているかのような錯覚に陥るのです。

多数の登場人物が立ち替わり出てくるサメ作品はフィクションとしてスリルを楽しめます。しかし今作はナンシーの一人称視点でストーリーが展開していくため、まるで自分がサメに狙われているかのような今までに味わったことがない恐怖を感じることになるのです。

あえて登場人物をひとりに絞ったという点が、従来のサメ映画とは違う視点で鑑賞でき、同時に強い恐怖を体感することにつながったのかもしれません。

リアルすぎて痛みすら感じる描写

また今作では他にもじわじわとした恐怖を感じさせられるポイントがあります。

それは描写がとにかくリアルすぎであるという点。

たとえばサメ映画あるあるともいえる、“サメに襲われた人が海中に引きずりこまれ、海が真っ赤に染まっていく”という描写。

今作でも海が血に染まるシーンが多々登場するのですが、とにかくリアル! もう海が赤く染まるなんてかわいい言葉じゃすみません。黒ですよ、黒。赤というよりはもはや黒に近いリアリティのある血の色が周囲の海を染めつくすのです。

そして血の描写でもっともリアルだったのが、サメに左ふくらはぎを噛まれたナンシーがピアスとネックレスで止血するシーン。痛い、とにかく痛い。思わず鑑賞しながら自分のふくらはぎを押さえた方も多いはず。

ナンシーの足から流れる血の色がもはや本物の血ではないのかと思うほどの色合い。そんな徹底的に描写のリアリティにこだわった作品だからこそ、今作はフィクションとしてではなく、まるで本当にサメに襲われかけている女性が目の前にいるかのように見えてしまう。その描写も恐怖という名のスパイスをくわえる重要な要因のひとつになっていたのです。

二度見ではさらにナンシー視点での鑑賞を

従来のサメ映画とは違う一人称視点のストーリーにくわえ、リアルを追い求めた斬新な描写。

その2点に徹底的なこだわりを見せたことで、今作はナンシーと同じ視点で恐怖や痛みという名の感覚を味わい、今までに経験したことのないスリルを感じる作品となっているのです。

二度見の際は、ぜひこの2点を頭に入れ鑑賞してみてはいかがでしょうか。きっと初見時以上にナンシー視点での鑑賞ができ、また違った恐怖を味わうことができるはずです。

「ロスト・バケーション」の二度見ポイント2:新境地を開いたブレイク・ライブリー渾身の演技

「ロスト・バケーション」の二度見ポイント2

ストーリーや描写で鑑賞する側を恐怖のどん底に落とし込む今作。

しかし恐怖を感じてしまう理由はまだ他にもあります。それは主人公であるブレイク・ライブリー渾身の演技。

ブレイクといえば、ドラマ「ゴシップガール」で瞬く間に人気女優の仲間入りを果たし、数々の恋愛作品に出演。根強い女性ファンを持つ存在です。

そんな彼女がサメと戦うという、おそらく誰もが想像だにしなかったであろうキャスティング。でも彼女はやり遂げました。そしてこの作品を経て、ただの人気女優ではなく、実力派女優であることを世に知らしめたのです。

表情ひとつで鑑賞側にも絶望感を与える

まずは何と言っても、ブレイクが見せる表情から伝わる絶望感。

今作の中では何度も助けを求めるチャンスが訪れるのですが、すべて失敗に終わります。そのときに見せる表情が本当にすばらしいのです。

これまでに彼女が他の作品で見せてきた「彼氏とうまくいかなくてつらい」的なシーンで見せる絶望的な表情とはもうワケが違います。本気で絶望しています。

そして何がすごいかって、彼女の絶望的な表情を見ただけで鑑賞しているこちら側まで「もうダメだ」と絶望させられてしまうのです。まるで自分自身がもう助からないと悟るかのごとく、本気で絶望感を味わうことになるのです。

表情ひとつで鑑賞する側の心境まで大きく変えてしまうブレイクの演技。何度見ても必見です。

これまで演じてきたキャラとは真逆の姿に

また今作ではブレイクの熱狂的な女性ファンにとっては、トラウマになってしまうのではないかと思うほど、ボロボロになった彼女の姿がいたるところで映されます。

他作品ではブランド物のドレスに袖を通し、ばっちりメイクで全世界の女性たちの憧れともいえるスタイルで登場することが当たり前であったブレイク。

しかし今作では全身があざと血で汚れ、ノーメイクの肌は疲労からボロボロになっている。おまけに終盤では鼻血まで出してしまうという、私たちがこれまで見ていたブレイクはどこに行った? と一瞬悩んでしまうほど、別人の姿を見せています。

極めつけが岩場にいた蟹を口にするものの、まずすぎて胃液とともに吐いてしまうというシーン。いやもう本当に高級ディナーとか食べていたブレイクはマジでどこに行ったの? と思わず目を背けてしまうほど、まったく別人の姿を見せています。

ただ、そんな彼女の迫真の演技から与えられる恐怖や絶望感。おそらく今作はブレイクでなければ、これほどまでのスリルを味わうことはできなかったでしょう。

ラストで見せるサメとの戦いがとにかくかっこいい

そしてブレイクの本領発揮した姿を拝めるのが、1対1でサメと戦うラストのシーン。

正直、絶望感がはんぱなさすぎて、中盤までは助かる気配が1ミリも感じられませんでした。

しかし彼女はやりとげたのです! サメと戦う武器もろくになく、助けを呼ぶ仲間もいない孤独な状況で、知識を駆使してサメを撃退。命からがら砂浜へと戻ることができたのです。

このラストのシーンの何がすごいかって、中盤までは絶望感しかない状況を演じていたにもかかわらず、いざサメと戦うと決めた瞬間から表情が一転。ものすごく心強いキャラへと変わり、鑑賞しているこちら側まで「何だかサメに勝てそうな気がしてきたわ」と希望がもてちゃう。

表情ひとつで鑑賞側を絶望に陥れたかと思えば、希望を与え、ドキドキワクワクさせてくれるブレイクの演技。いやはや、本当にラストの彼女はかっこよかったです。

他作品と今作でブレイクの演技を比較してみては?

人気女優であり、ファッションアイコンでもあるブレイク・ライブリーが見せた、体当たりの演技が数多く登場する今作。

まさしく彼女の新境地を開くきっかけになった作品であり、ただの人気女優でなく、本当に実力のある女優であることを全世界に知らしめた作品であると言っても過言ではないでしょう。

というわけで二度見をお考えの方は、まず彼女が出演する他の作品を鑑賞することをおすすめします。そして今作と他作品を比較してみると、いかに彼女の演技がすばらしいか。そして彼女の存在が今作に必須不可欠だったということを改めて実感することができるのではないでしょうか。

「ロスト・バケーション」の二度見ポイント3:恐怖と絶望の中にあるちょっとした癒しポイント

「ロスト・バケーション」の二度見ポイント3

とにかく恐怖と絶望の二文字だけが脳裏に残り続ける今作ですが、ちゃんとありますよ。サメ映画には必須のちょっとした癒しポイントもね。

ということで「怖すぎて二度と見返したくない」とトラウマを抱いている方に向け、ここからは今作の癒しポイントについてもしっかりご紹介していきたいと思います。

行動のすべてがかわいいカモメの存在

今作の癒しポイントといって外せないのは、やはりカモメの存在でしょう。

サメから逃れたナンシーがたどり着いた岩場にたまたま居合わせた1匹のカモメ。負傷しているため飛ぶことができず、その後、ナンシーのそばで一緒に過ごすことになるのですが……。

とにかく行動がかわいい。もうサメとかどうでもいいと言いたくなるほど、ずっと見ていられるかわいさ。

初見ではいつどこに現れるかわからないサメの存在に気をとられていた方も多いと思いますが、結末がわかった二度見では、あえてカモメに注目してください。

ナンシーを見つめる目や、ピョンピョンと飛び跳ねて移動する姿。その行動の一つひとつが愛らしくて癒されます。

スカッと感が味わえる序盤のサーフィンシーン

癒しと同時にスカッと感を与えてくれるのが、序盤のサーフィンシーン。

ナンシーと地元のサーファーふたりが華麗なサーフィンテクを見せるシーンがしばらく続くのですが、何度見てもかっこいい! もはやサーフボードのCMにしか見えないクオリティの高い映像! このCMが流れたら間違いなく、サーフボードを買っちゃいますね。サーフィンしたことないけど。

おまけにBGMが映像にピッタリ。この後すぐサメが現れることなんて忘れ、サーフィンの世界に没頭させてくれます。

個人的にはエンドレスでこのシーンを繰り返し見る二度見鑑賞もありじゃないかなと思うほど、見ているだけですがすがしい気分にさせられる貴重な場面です。

エンディングで映る美しい海とSiaの歌声

見事にサメを撃退し、無事に生還したナンシー。そしてラストで描かれるのは、1年後、父と妹とともに海へと帰ってきたサーファー・ナンシーの姿。

その姿を見て、ただただ恐怖と絶望だけを感じていた作品の最後がハッピーエンドであることに安堵感を覚えた人もいることでしょう。

しかしご注目いただきたいのは、その後すぐ、画面いっぱいに広がる数々の美しい海の景色。

これがまたエンディングのテーマソングであるSiaの「Bird Set Free」とめちゃくちゃマッチしているのですよ!

壮大な自然のパワーを感じさせてくれる、海の描写。さっきまではサメの恐怖から「二度と海に行きたくない」と思っていたはずが、エンディングの景色を見た途端、今すぐにでも壮大な海を見に行きたい衝動にかられてしまいます。

もしも初見時にエンディングはすっ飛ばしてしまったという方がおられましたら、二度見では忘れずにチェックしてください。癒されます。美しい海と押し寄せる波の描写にとにかく心から癒されます。

癒しポイント重視の鑑賞で気持ちに余裕を

恐怖と絶望の繰り返しである今作ですが、じっくり見直すと癒しポイントも多々登場しているのです。

二度見では一旦サメのことは忘れ、これらの癒しポイントをしっかりチェックしてみてください。心が落ち着き、気持ちを立て直して再びストーリーの中に入り込むことができるはずです。

二度見ではさらに強い恐怖感を味わえるかも?

従来のサメ映画の常識を根本からひっくり返した「ロスト・バケーション」は、これまでに味わったことのない恐怖あり、絶望ありと、サメ映画ファンの方であれば、何度見ても楽しめる作品となっております。

二度見ではそんな新しいタイプのサメ映画に注目しつつも、恐怖を感じるポイントやブレイク・ライブリーの迫真の演技を初見時以上に堪能してみてください。

ちなみに筆者は二度見のときのほうが強い恐怖を感じました。展開や結末はわかってはいるものの、なぜか二度見のほうが強い恐怖感に苛まれました。

そんな何度見ても楽しめる点も、今作ならではの魅力なのだと思います。

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WRITTEN BY
シングメディア編集部

映像・動作制作を手掛けるTHINGMEDIA株式会社のメンバーで構成しています。制作現場で得た映像・動画の知見をお伝えしていきます。


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