こんにちは、バックオフィス業務サポートサービス「AIBOW」編集部です。
労務とは、会社における労働に付随する関連業務を指す言葉。従業員の給与計算といった事務処理や勤務時間の管理、保険の手続きなどが該当します。
目立つ仕事ではないものの、企業にとって必要不可欠な存在です。
そこで今回は、「労務の役割や人事・総務との違い、業務内容、求められるスキル」など、労務に関連する情報を幅広く解説します。
労務の主な役割
労務は会社の従業員が安心して働けるよう、裏から支える仕事。組織の土台を作り、それを維持または改善していくために欠かせない存在です。
そんな労務の役割は、主に「納税や健保などに関する事務手続き」「従業員の安全と健康を管理するサポート業務」「法令遵守に関する業務」の3つ。それぞれどのような業務なのか、詳しく解説していきます。
納税や健保などに関する事務手続き
労務の主な役割の一つとして、企業活動が円滑に進められるよう、従業員管理に関わる事務仕事をおこなうことが挙げられます。
従業員への給料の支払いをはじめ、税金の納付、健康保険への加入手続きなど、管理事務の種類は多岐にわたります。
給与計算は毎月、勤怠管理表や人事評価などをもとに、従業員一人ひとりの賃金を計算しなければなりませんが、その際に所得税や住民税などといった税金関係の手続きもする必要があります。
給与計算のミスは従業員のモチベーションを下げてしまったり会社への信頼を失くしてしまったりすることにもつながりかねないので、慎重におこなわなければなりません。
従業員の安全と健康を管理するサポート業務
労務の主な役割として、従業員の安全と健康を管理するサポート業務をおこない、会社がうまく機能するための環境を整えることも挙げられます。
労務には、日々の生活を支える基盤となる「インフラ」のように、会社と従業員を支える役目があるのです。
従業員の安全と健康を管理するためには、労働安全衛生法を順守することが大切。具体的には、健康診断を実施したり、2015年から義務化されたストレスチェックを実施したりします。
法令遵守に関する業務
従業員が適正に労働できるよう、会社に労働基準法を遵守させることも労務の大切な役割であり、業務の一つです。
具体的には、雇用保険法にもとづき、社会保険や労働保険などの手続き業務をおこないます。
労働契約法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法など、労務に関係する法律は少なくないため、必須ではありませんが、法律に関する幅広い知識を身につけておくのが望ましいです。
労務と「人事・総務」は何が異なる?
労務と同様に、会社の従業員が安心して仕事ができる組織づくり、環境づくりには人事と総務も関わっています。労務を人事・総務の部署が兼任する会社もありますが、本来それぞれの役割や業務内容は異なります。
そこでこの段落では、業務の範囲があいまいになりがちな労務と人事の違い、労務と総務の違いについて解説します。
人事との違い
労務と人事はどちらも人材に係る仕事ではあるものの、その業務内容には違いがあります。
人事は従業員と直接、かつ深く関わる仕事で、採用や教育・研修、評価、人員配置などが主な業務となります。企業の目指す方向性などを考慮した上で、ともに成長できる人材を採用して育て、最適な部署へ配属するという形です。
一方、労務は人事が採用した従業員に対する事務仕事が主な業務となります。給与の計算や社会保険の手続きなどを法律や会社規定に基づいて処理していきます。
人事は個々の人材を活かす業務、労務は従業員全体を活かす業務であるともいえます。
ただし企業によっては人事と労務の業務を一本化している場合もあるという点も覚えておきましょう。
総務との違い
総務と労務もその違いがあいまいになりやすいもの。
総務の仕事は、企業の事務全般を管理・運営することです。具体的には、社内の備品発注・管理、機器や施設の管理、社内イベントの企画運営、電話対応・来客対応などが主な業務となります。
人事のように人材活用や経営に係る業務というより、労務と同様にバックオフィスとして従業員を支援する役割ですが、労務のように給与や保険などに関する業務はおこないません。
ただし総務に関しても、中小企業では労務と兼任されるケースも多くなっています。
労務の業務内容
基本的には勤怠管理、給与計算、福利厚生、規則・規定、労働安全衛生が労務の主な業務ですが、小規模な会社で人事や総務も兼任している場合、何が労務の業務範囲なのかわかりにくいもの。
そこでこの段落では改めて労務の業務内容を細かく解説していきます。
勤怠管理
労務がおこなう業務の一つとして、勤怠管理が挙げられます。
勤怠管理では、従業員一人ひとりの出退勤時間、残業時間(時間外労働時間)、休憩時間、出欠勤日数、休日出勤状況、有給休暇日数といったものを管理します。
日本では残業の多さが問題視されており、働きすぎによって心身の健康を壊してしまう従業員も少なくありません。
そのため近年では法改正によって有給休暇の取得が義務付けられたり、残業時間の上限が設定されたりと、労働に関するコンプライアンスも厳しくなっています。
企業の成長において大切な人材である従業員の心身の健康を守るためにも、労働基準法に違反しないよう、一人ひとりの勤怠を適切に管理することが労務に求められています。
給与計算
労務の大切な業務の一つとして、給与計算も挙げられます。
残業や休日出勤、各種手当により固定給の正社員であっても給与は変動するため、毎月勤怠管理などをもとに、一人ひとりの従業員が働いた分の賃金を計算する必要があります。
また給与の計算とあわせて、所得税や住民税などの手続きも必要です。
給与計算や税金の手続き業務はとても複雑となり、ミスも許されないため、労務にとって非常に責任が大きくプレッシャーのかかる業務でもあります。
間違いなく計算するためには、給与計算ソフトを活用したり税理士・社労士に代行を依頼したりすることも有効です。
年末調整
給与所得者の年末調整をおこなうのも労務の仕事です。
年末調整は、1年間に源泉徴収された所得税などを計算し、実際に収める所得税の差を求め、過払いがあれば還付し、不足があれば徴収するという制度です。
従業員によって控除が変わり、計算も異なるため、早めに控除証明書などの必要書類の提出を呼びかけ、回収することが必要になります。
法定福利厚生
労務の業務には、法律の定めによる各種保険である法定福利厚生の手続きをおこなうことも含まれます。
具体的には、健康保険や厚生年金保険、雇用保険、介護保険、労災保険への加入手続きです。
手続きの漏れや不備があると、従業員に多大な不利益が生じる場合があるため注意しなければなりません。
また社会保険料での企業負担分となる「法定福利費」の計算も必要です。法定福利費の計算は、労務費総額×法定保険料率となります。
法定外福利厚生
従業員が働きやすい環境をつくるために、会社が任意でおこなう福利厚生である法定外福利厚生に関する手続きや提供業務も労務の仕事です。
具体的には、交通費や住宅手当の支給、社宅の提供、育児支援、社員食堂やレクリエーション施設の設置、慶弔金の支出などが挙げられます。
法定外福利厚生は企業によって異なりますが、求職者の中には福利厚生が充実しているかどうかを応募基準の一つとしている人も少なくないので、常に見直しをおこなうことも大切です。
なおこれらにかかる費用は、法定福利費に対して「法定外福利費」と呼びます。
就業規則等の作成や管理
労働問題の発生を防止するためには、会社ごとのルールを明確化することが必要となります。
労働時間や給与、休暇、休憩時間などを定めた就業規則はその代表例。就業規則等を労働基準法に基づいて作成し、管轄の労働基準監督書に届けるのが労務の業務となります。
しかし実際に就業規則等の作成をおこなうには高い法律知識が必要となるため、草案をつくるのは労務がおこない、あとは専門知識を持った社会保険労務士や弁護士に見てもらうことになるでしょう。
就業規則等を作成したら、それに基づいた管理・運営をおこなっていくことが大切です。
労働安全衛生
従業員の安全と健康を守るために、職場の安全衛生管理をおこなうことも労務の仕事です。
具体的には、2015年12月から義務化されたストレスチェックをはじめ、健康診断やインフルエンザ予防接種の実施、労災対応、産業医面談の実施などがあります。
日頃から従業員のメンタルヘルスに不調が起こるのを予防し、ストレスへの気付きを促したり、ストレスの原因を取り除いたりすることが大切です。
労働問題への対応
日々の業務の中では、ハラスメントや労災など従業員と予期せぬトラブルが発生することもあります。そういった労働問題に対応するのも労務の役目です。
よくあるのが、セクハラやパワハラといったハラスメントトラブル、そして賃金に関するトラブル、労働時間や休日・休暇に関するトラブル、解雇に関するトラブル、労務災害に関するトラブル。
労務は従業員の労働環境への不満を聞く窓口となり、使用者との間に立って調整することになります。
当事者間の話し合いによる解決が難しい場合は、労政事務所や労働基準監督署、労働委員会のような第三者機関、あるいは専門家に相談することも求められます。
社労士や弁護士ら専門家との連携
社会保険労務士や弁護士、税理士などと顧問契約を結んで、労務が専門家と連携して業務にあたることもあります。
労務には法律の専門知識が関わる業務が多く含まれるのが特徴です。特に就業規則の作成や社会保険・税金の管理などは、法律知識がないままで完璧におこなうのは難しいもの。
そんなときには必要に応じて、社会保険労務士や弁護士、税理士などに依頼するようにしましょう。労務トラブルを防ぐためにも、専門家との連携が大切になります。
労務担当者の業務スケジュール
労務は役所への届け出や手続き業務が多く、期限に縛られることが多いもの。そのため、どの時期に何をおこなうかのスケジュールを立てて業務を進めることが大切です。
そこでこの段落では、労務の年間スケジュールと毎月のスケジュールについて説明します。
年間の業務スケジュール
まずは労務がおこなう主な業務の年間スケジュールを見ていきましょう。
・4月:新入社員の各種保険の資格取得届を提出
・7月:賞与支払届(夏季賞与分)、算定基礎届、高年齢者・障害者雇用状況報告書の提出
・11月:被扶養者状況リストの提出
・12月:賞与支払届の提出(冬季賞与分)
・1月:法定調書、給与支払報告書の提出
・3月:36協定の届出
1月、4月、7月、10月には労働基準監督署に、労働災害などで4日未満の休業をした従業員がいた場合、3か月ごとに「労働者死傷病報告」の提出もおこないます。
なお労災などで4日以上の休業をした従業員や死亡した従業員がいた場合は、まとめてではなくすぐに提出する必要があります。
提出物が多いため、労務は年間スケジュールをしっかり作成してトラブルや漏れがないよう注意しましょう。
毎月の業務スケジュール
続いて労務がおこなう毎月の主な業務スケジュールについても見ていきましょう。
・毎月10日は源泉所得税、住民税(特別徴)の納付
・給与支給日の前には、給与計算と給与明細の作成、給与の振込手続き
・月末は健康保険・厚生年金保険の社会保険料納付手続き
このほかにも、傷病手当金の手続きや産休・育休関係の手続きなどは不定期に起こりうるものです。
毎月対応することが決まっている業務については、スケジュールをもとに業務の配分をおこない、余裕をもってできるようにしましょう。
必要に応じて勤怠管理システムや給与計算システムなどを導入して自動化し、業務の効率化をはかるのもおすすめです。
労務担当者に求められるスキルや適性
労務は管理業務や事務手続きが多いですが、社内外の人と関わる機会もよくあります。誰にでも簡単にできる仕事ではなく、スキルや適性が求められるでしょう。
そこでこの段落では、労務に必要なスキルと適性について解説していきます。
法律に関する知識や専門性がある
労務の業務には労働基準法や社会保険関連法のほか、税法なども関わってきます。
たとえば給与計算であれば、労働基準法で規定されている賃金支払の五原則を知っておかなければなりません。
賃金支払の五原則は、『(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならない(労働基準法第24条)』という定めです。
さまざまな法律や制度に基づいて正確に業務をおこなうためには、法律の理解と専門的な知識が必要となります。
・参考サイト:賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。|厚生労働省
事務処理や細かい作業に長けている
労務は繁忙期になるとデスクワークに明け暮れることもあります。
またそれぞれの業務に期限があり、かつ重要な書類などの処理にはスピードと正確性が求められるでしょう。
そのためパソコンのスキルに通じていること、細かいミスにも気づける注意力があることなど、事務作業が得意な人が向いています。
高いコミュニケーション能力を持っている
業務の中には、労務が窓口となって従業員の相談を受けることもあります。その際に相手の言いたいことを正しく理解し、相手にわかりやすく情報を伝えることも必要になります。
また従業員に対してぶっきらぼうな対応をしてしまうと、会社への不満や不信感につながりかねません。
さらに法律が絡んでくる業務では、専門家と連携して業務を進めるケースもあります。
このように人と関わる業務も多いため、労務には事務作業スキルだけでなく、コミュニケーション能力も求められるのです。
機密保持や法令遵守の意識が高い
労務を通じて従業員の個人情報や毎月の給与額などを知ることができるため、機密情報を漏らすような人には任せられません。
また労務は従業員が働きやすい労働環境をつくる立場にあるため、労働基準法などに違反しないよう率先して取り組む姿勢が必要です。
そのため機密保持の意識や法令順守の意識が高いことも求められます。
労務に関連する資格
労務のスペシャリストになりたい、あるいは能力のある労務担当者を採用したい場合、注目すべき資格は社会保険労務士や労務管理士です。労務の実務経験を活かして、これらの資格取得を目指すことも可能となっています。
そこで社会保険労務士や労務管理士とはどのような資格でどのようなことをおこなうのか、詳しく解説していきます。
社会保険労務士
社会保険労務士は、一般に「社労士」と略称され、労務関連の法律知識に長けた国家資格です。
労働関連法令や社会保障法令に従って書類などの作成代行をおこなうのが主な仕事となります。
具体的には、労働社会保険諸法令に基づいた申請書等の作成、申請書等の代理提出などの手続代行、会社に代わって労働社会保険に関する法令に基づいた申請をする事務代理といった独占業務があります。
独立開業して、企業から給与計算や人事、労務管理に関するコンサルティングを請け負うことも可能です。
・参考サイト:社会保険労務士法 | e-Gov法令検索
労務管理士
労務管理士は、労務に関する職能民間資格です。
業務範囲は、労働契約の締結や労働条件の変更・管理、社会保険や労働保険の管理、給与や賞与の計算業務、健康管理と労働環境の改善業務、就業規則などの管理となります。
国家資格ではないため、社会保険労務士より業務範囲は狭く、社会保険関連の業務など社労士の独占業務を代行することはできません。もしも社労士の独占業務を代行してしまうと罰せられるので注意が必要です。
業務範囲が社内人事に限定されており、できることも少ないですが、労務管理業務に関する基本的なスキルや知識を持っていることを証明する資格としては有効となります。
労務が対応する労務問題
事務処理や手続き業務と同様に、社内の労務問題の解決を図るのも労務の大切な役割です。人間関係や労働環境など、社内ではさまざまなトラブルが起こりうるもの。
そこでこの段落では、企業に起こりうる代表的な労務問題について解説します。
いじめやハラスメントの問題
労務が対応する労務問題の一つが、職場でのいじめ、パワハラ・セクハラなどのハラスメント。
いじめやハラスメントは、従業員がうつ病になったり、会社を辞めたりすることにつながる重大な問題です。
これらは職場環境の悪化や人材の喪失、生産性の低下の原因となり、業績にも悪影響が及びます。
損害賠償請求をされたり、企業イメージを大きく損なったりするリスクもあるため、研修や注意喚起を通じて従業員の意識を高めることが重要です。
労働時間や残業の問題
労務が対応する労務問題には、労働時間や残業の問題もあります。
朝礼や掃除、着替えや待機、通勤時間など労働時間とみなすかどうか難しいケースがあり、これらは使用者と従業員の間で衝突が起こりやすいものです。
特に就業前に早く来て朝礼や掃除をおこなわせる、電話対応などで休憩中も自分の席で待機させるといったことは問題になりやすくなっています。
残業(時間外労働)や休日労働をさせる場合には、36協定(労働基準法36条に基づいた労使協定)を締結し、労働基準監督署への届け出が必要です。
従業員数が常時10人未満の小規模な事業所では、1週間に44時間、1日に8時間まで労働させられる特例措置や、管理監督者の適用除外(労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されない)など、例外的な運用も熟知しておく必要があります。
給与や休暇の問題
給与や休暇の問題も、労務が対応する労務問題となります。
たとえばよくトラブルになるのが、資金繰りが苦しいなどの理由で従業員の給与をカットするケース。
従業員の賃金を一方的に引き下げるような労働条件の不利益変更は認められません。従業員の自由意思に基づく合意が必要となります。
またケガや病気で長期休暇を取得した場合に、給与計算や保険手続きでミスが起き、トラブルになるケースもあります。毎月一人ひとりの勤怠管理などとしっかり照らし合わせ、こうしたミスが起こらないよう努めなければなりません。
会社が任意で定める特別休暇を従業員が取得する際も、有給か無給か、出勤扱いか否かで揉めることがないよう、就業規則を周知徹底するようにしましょう。
不当な処分の問題
労務が対応する労務問題には、不当な処分の問題もあります。
従業員を解雇する場合、労働契約法16条で、「客観的かつ合理的」な理由と「社会通念上の相当性」があることを確認し、不当解雇にならないようにすることが定められています。
不当な配置転換はパワーハラスメント(パワハラ)とみなされる場合があるので、慎重におこなうようにしましょう。
退職を促すという不当な動機・目的があれば無効かつ違法となります。
また育児介護休業法26条では、子どもの養育や介護が困難になる配置転換にならないよう使用者側に配慮義務を定めています。
従業員の自由な意思決定を妨げるような、強制的あるいは継続的な形で退職勧奨をおこなうことも認められないため注意が必要です。
労務は会社と従業員を支える重要な役割
労務は労働に関する業務全般を扱い、中でも管理事務や手続き業務を中心におこなうことになります。そのため事務処理能力と法律の知識が必要です。
従業員からの相談を受けたり、役所や専門家と関わったりもするため、高いコミュニケーション能力も求められます。
労務は職場環境の改善や労務問題への対応など、会社と従業員をサポートする大切な役割だといえるでしょう。
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