こんにちは、バックオフィス業務サポートサービス「AIBOW」編集部です。
映像クリエイターやデザイナーのような仕事の忙しいクリエイティブ業界では、従業員の有給休暇取得を認めにくい状況がよくあります。
基本的に有給休暇は社員の好きなときに取れるものですが、これを変更するために定められているのが「時季変更権」です。しかし時季変更権を行使する際には、守るべきルールや注意しなければならないポイントもあります。
そこで今回は、「時季変更権の概要、時季変更権が認められる条件や行使するときのポイント」などを詳しく解説します。
時季変更権の概要
時季変更権とは、従業員が希望した年次有給休暇の日に対し、会社側から変更を求めることができる権利を指します。
労働基準法では、「年次有給休暇は労働者が希望する日に取得するもの」と定められており、これを有給休暇の「時季指定権」と呼びます。
一方、労働基準法では「請求された時季に有給休暇を与えた際に事業の正常な運営を妨げる場合は他の時季にこれを与える」とも定められているのです。これが「時季変更権」に該当します。
時季変更権の行使については、「指定された年休日が事業の運営を妨げる事由がある」という内容だけで可能です。
とはいえ、年次有給休暇は労働者が自由に請求できる権利も認められているもの。そのため正当な理由によって行使する際にも、従業員にしっかりと時季変更をしなくてはならない理由を説明することが信頼関係の上でも大切です。
また時季変更権の行使にあたって、会社側から有給休暇を取得できる代わりの日を具体的に提案する義務はないとされています。
時季変更権を行使するのであれば、従業員から有給休暇の申請があり次第すぐに検討し、行使しなくてはなりません。
・参考サイト:労働基準法第39条(年次有給休暇)について | 厚生労働省
時季変更権が認められる代表的な4つの状況
時季変更権は先述した通り、「事業の正常な運営を妨げる場合」に行使できますが、具体的にはどのような場面を指すのでしょうか。この段落では、時季変更権が認められる代表的な4つの状況について一つひとつ詳しく解説します。
1. 当従業員でなければできない仕事が発生しているとき
時季変更権が認められる可能性が高くなるケースの1つめは、当従業員でなければできない仕事が発生している場合です。
有給取得を希望した当従業員が所属する課や係の中で、他の従業員では対応することができず、その従業員しかできないような専門的な作業が発生している場合、時季変更権が認められる可能性があります。
また、もともと必要最低限の少数精鋭で仕事をおこなっているような職場の従業員も、有給取得で時季変更権が行使されるケースが多いです。
代替人員を用意するのが困難な客観的事実があり、かつその作業の期日が目前に迫っていれば時季変更権が認められる可能性はより高まります。
2. 研修や訓練など本人の代わりが立てられないとき
時季変更権が認められる代表例の2つめのケースは、研修や訓練など本人の代わりが立てられないときです。
有給休暇を申請した日に、本人が参加するしかない研修や訓練などがあった場合、時季変更権の行使が正当化されやすくなります。
なぜなら研修や訓練に本人以外の他人が参加しても、本人の代わりに知識や技術が習得できるわけではなく、意味がありません。そのため代替人員を立てようがないという理由から時季変更権の行使が正当化されやすいのです。
ただし研修が長期に渡る場合は有給休暇を取得できない期間が長くなってしまうため、時季変更権の行使が認められにくくなる可能性があるという点についても覚えておきましょう。
また本人が参加をしたとしても、あまり知識や技術の習得が見込めないような研修内容であれば、時季変更権行使の根拠は薄くなります。どんな研修内容でもいいというわけでないのです。
3. 同じ時期に有給取得者が集中して業務が回らないとき
時季変更権が認められやすくなるケースの3つめは、同じ時期に有給取得者が集中していて業務が回らないときです。
繁忙期に有給取得希望者が複数名出たときも、時季変更権は認められやすくなります。
また人員を一定数確保できないことにより、業務に支障がでる状況であることを具体的に証明できるほど時季変更権が認められる可能性が高くなるのです。
たとえばサービス業や運送業はその業務の性質上、繁忙期の最中に多くの人員が同時期に有給を取得してしまうと、営業ができなくなってしまいます。運送業で大型トラックの運転ができる代わりの人を確保するというのは難しいので、営業に支障をきたしてしまうのが明確です。
そうなれば「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するので、時季変更権が認められる可能性が高くなります。
4. 業務に影響が出るほど長い期間連続で有給休暇を取得するとき
時季変更権の行使の対象になるケース4つめは、業務に影響が出るほど長い期間連続で有給休暇を取得するときです。
1か月以上長期に渡って連続で有給休暇を取る場合、その代わりの人員を見つけることは難しいもの。そのため、事業の正常な運営を妨げるケースと判断されやすくなります。
一人で業務を複数担当している人員の場合、休んだ場合の影響範囲がさらに大きくなるので、一方的な考えで長期におよぶ有給休暇は時季変更権の行使も致し方ないといえるでしょう。
ただし会社側は長期間におよぶ連続の有給休暇について時季変更権を行使する際、すべての日に対して時季変更権を行使するのではなく、出勤しなければ事業の運営に支障が出る日に絞ることが必要です。前後2週間ずつに分けて有給を取得してもらうなどの対処をするのもいいでしょう。
なお、とある時事通信会社の事例では、報道記者が24日連続での有給休暇を希望したのに対し、会社側は後半の10日間について時季変更権を行使し適法と判断されています。
時季変更権の行使をめぐるトラブル
時季変更権は正当な事由があれば企業に認められている権利ではありますが、その行使をめぐってさまざまなトラブルがあるのも事実です。
従業員が時季変更権に従わない場合、会社としては従業員が休んだ日を有給扱いとせず、欠勤として賃金を欠勤控除する対応となります。また内容によっては懲戒処分の検討も視野に入るでしょう。
しかし有給休暇の取得時期は労働者の自由という原則もあるため注意が必要です。従業員側が「自分の好きなときに自由に有給休暇が取れない」ということを不満に感じるケースも少なくはありません。中には会社の対応に不満を感じ、訴訟に発展するケースもあるのです。
従業員側が時季変更権の行使に納得できないときは、他の時期であれば休みが取れるのか、業務上致し方ない事由なのかなどについて、会社側に説明が求められます。
従業員が有給休暇取得を拒否する理由が違法だと感じ、会社がそれに対して対応しないときは、労働基準監督署や弁護士への相談といった手段が取られることもあります。
訴訟にまで発展すると、お互いに大きな負担になるため、時季変更権の行使をおこなう際には従業員との間のトラブル防止が重要な観点になるということを覚えておきましょう。
時季変更権を行使するときに気をつけるべきポイント
いくら企業の権利だからといっても、時季変更権を強引に行使してしまうとさまざまなリスクを抱えてしまうもの。そのため時季変更権を行使する際には細心の注意が必要になります。この段落では、時季変更権を行使するときに気をつけるべきポイントについて一つひとつ詳しく解説していきます。
やり方によってはパワハラと受け取られる
時季変更権の行使は、やり方を間違えるとパワハラと受け取れてしまうことがあるため注意が必要です。
時季変更権があるからといって、「この日は休まないで」「その日もダメ」など従業員の希望する有給休暇を却下し続けていると、パワハラ扱いと受け取られる恐れがあります。
また有給休暇を取得する理由を従業員に尋ねる際も注意しなくてはなりません。有給休暇の理由を聞くこと自体は違法ではありませんが、その理由によって有給休暇を認めたり拒否したりすることは認められません。
たとえば有給取得の理由が「友達と旅行に行くから」というものだった際に、「遊びに行くためならダメ」というのはNG。
病欠、冠婚葬祭、旅行、たとえ用事なく自宅にいるだけであっても有給休暇は労働者が自由に使いたいときに使えるものだからです。
時季変更権を濫用して従業員から訴訟を起こされると、使用者は6か月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金に処せられます。
時季変更権は使用者の都合だけで行使できるものではなく、労働者の希望を極力考慮しようとした上で、仕方なく行使されるものです。
時季変更権を行使する前に、代わりの人員の確保や勤務シフトの変更など、使用者側が努力する姿勢を見せることで従業員とのトラブルは避けやすくなります。
「忙しいから」という理由だけでは認められない
時季変更権は、「忙しいから」という理由だけでは基本的に認められません。
繁忙期になると、会社側としては仕事を優先したいと考えがちです。繁忙期に休まれると事業の正常な運営を妨げられるので、時季変更権の行使が認められると思い込んでいる人もいるでしょう。
しかし今までの裁判例を参考にすると、「繁忙期だから」という理由だけで時季変更権の行使を認められたケースはほぼありません。
繁忙期に有給休暇取得者が重なり、代替勤務者の確保がどうしてもできないなど、合理的な理由が必要です。
ちなみに、常に繁忙期のような状態で慢性的に人手が足りていないような会社の場合は、時季変更権の行使が不可となります。このような状況で時季変更権の行使を認めてしまうと、従業員の有給取得がいつになってもできないためです。
従業員が好きなときに有給取得ができるよう、会社は常に十分な人員を確保しておく努力が必要となります。
退職時や倒産時などの有給消化には行使できない
まず退職日が決まった後に、退職予定日までの期間以上の有給休暇を消化するケースでは時季変更権の行使はおこなえません。
時期変更権の行使は、他の日に有給休暇を与えることが前提ですが、退職が決まっている従業員の有給消化は、他の日に有給休暇を取得してもらうことが不可になります。そのため時季変更権の行使は認められないのです。
そのときに有給休暇を取得しなければ従業員の有給休暇が時効で消滅してしまうというときも同様に時季変更権の行使は認められません。
また会社の倒産や事業の廃止などで、時季変更権を行使すると有給休暇を消化しきれない場合も同様です。
その他にも、産後休業や育児休業の期間に重なったり、年次有給休暇の計画的付与制度を利用したりしたときにも時季変更権の行使はできません。
就業規則で時季変更権のルールを明確にしておく
企業は就業規則で時季変更権のルールを明確にし、従業員に周知しておくことも大切です。
時季変更権のトラブルを防ぐためのひとつの対策が、就業規則に明記しておくこと。「従業員から申請された有給休暇を取得させることで、事業の正常な運営が妨げられる場合は取得日の変更を検討する」など、時季変更権の内容を明確にしておくことが大切です。
就業規則の中で時季変更権をルール化しておけば、従業員への周知にもつながりやすくなります。
ただし就業規則として時季変更権を記載しているからといって、必ずしもそのまま行使できるとは限りません。時季変更権行の行使は、さまざまな事項を考慮して客観的に判断されるものです。
時季変更権の行使をする際には従業員への配慮が必要不可欠
多忙な時期に従業員から有給休暇申請があるというのは、経営者にとって大変悩ましい問題です。そのようなときに時季変更権の行使は有意義ではありますが、従業員への配慮を忘れてはいけません。
有給休暇の変更はさまざまなトラブルの元になるため、あくまで「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみ適用可能と認識することが大切です。会社の都合に合わせて軽々しく時季変更権を行使しないよう注意が必要となります。
トラブルを避けるためにも、従業員とよく話し合った上で時季変更権の行使を慎重におこなうようにしましょう。
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